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夏の夜。
最終バスを待っていると、いつの間にか隣りに幼い子が立っていた。
浴衣を着た、髪の長い女の子だった。
おもむろに顔を上げた女の子と目が合う。
女の子はにこりと俺に向かって笑った。
無視すればよかったんだろうけど、つい「誰かを待っているの?」と聞いてしまった。
「おじいちゃんを迎えにきたの」
夜なのに、ジージーと蝉がうるさく鳴いている。
バス停の後ろを振り返る。
黒い山を背に大きな寺がひとつ。他に民家はなく、墓地から風にのって線香の香りが漂ってくる。
——なんで視えちまうかな。
今日は八月のお盆。
「おじいちゃん、早く来るといいね」と言うと女の子は「うん」と頷いた。
そして「あ、バスがきたよ」と女の子が道の先を指差す。
バスが目の前に停車し「じゃあ、またね」 と言って女の子が手を振り見送ってくれる。俺はバスに乗った。
——はあ。ついてきたらどうしようかと思った。
バスにはどこからともなく乗客がぞくぞく乗り込み、隣りに座った年配の男が俺をちらりと見た後、窓から外をのぞく。
「あんくらいの小さな子には幽霊が視えちまうんだよなぁ」
窓の外を見ると、原付で帰ってきた寺の住職が女の子を呼びとめていた。
「あの子は住職のお孫さんだよ。あんた見ない顔だな。初盆?」
「ええ。先々月、バイク事故であっけなく」
天国送迎バスは空に向かってぐんぐん上昇。お寺と住職と女の子がどんどん小さくなっていく。
「またね」か。
また来年のお盆も会えるかな。
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