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燃ゆる茅の輪奇譚
「それは、どのような光景で。」
やわらかな声と共に意識が
墜ちていく、、、
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目の前に現れた
社
その
境内に作られた
茅の輪を、無限を描くように
潜り抜けて、
歩いて行くと、神職
から
白い人型を受け取とる。
人型で
身体を撫でてから
それに息を三回吹き掛けた。
「次には、どうされましたか。」
そして
焚上の神主に
お渡しする。
人型は神主の
手で
業火にくべられ紫煙になった。
年も半分が過ぎ、
参じた、、
夏越しの祓え。
晴れ間に
季節の気配を感じる。
境内には、愛でられるかの様に
丸い玻璃の器中に
紫陽花が水中花にし
沈められ
いくつも境内に置かれ
「どんな、感じでしょう。」
なんとも、、
雅だ。
打ち水をされた 石畳。
絵になる光景に
目を奪われる。
玻璃の器を覗くと
ヒラリヒラリと蝶々の如く
遊ぶ
黒い蜻蛉が
映り見えて
思わず辺りを見回す。
まるで
日陰はこちらと誘う空中浮揚。
上質な西洋絹を想わせる
漆黒の羽。
緑翠玉の様な
糸の体。
装飾品のように美しいのに
黒が故の弔い心を
仄めかす雰囲気が
「悩ましげだったのですね。」
そのまま手を伸ばそうと
すると、するりとすり抜け
境内の奥に奥にと
飛んでしまう。
夢中で追い掛けて
気が付けば
禁忌の山境に出てしまった。
ああ、
これ以上は
結界注連縄で前に進めない。
黒い蜻蛉は
捕まえられなかった事に
寂しくなる。
「そうすると?」
『あんた、あの黒いの、取りたい
って思ったのかい?あれは、
御羽黒蜻蛉って言ってね、
神様蜻蛉だよ。この辺りは
蜻蛉の里だけど、あれが出ると
夏の聖霊も降りてくる。
そっと、しておきなさいよ。』
そう声を掛けて
禁忌の山に手を合わせる
老人が
いつの間にか 後ろにいる。
老人の日に焼けた両手が
合わさると
まるで
御羽黒蜻蛉が
羽を閉じる姿に見えた。
『殺生したらいかんよと、
教えてくれる蜻蛉なんだよ。』
もう一度、
念を押すように説いて、
老人は表に戻って消えた。
1人取り残される
禁忌の山の前で、
ザワザワと風が戦慄いて
慌てて
途端に山へと
一礼をすると 老人を追い掛けた。
「なるほど、そうでしたか。」
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「摩訶不思議といえば不思議。」
炎にてらされて
美丈夫な顔を、白く浮き上がらせ
小姓が太刀を手に
静かに座する。
「あの時、羽黒蜻蛉を捕らえよう
としたのが始まりやもしれぬ」
その先の未来がここに在る。
「殿。」
「辞世は詠まぬ、介錯を。」
「はは、戻りました暁には、
再びお仕え致しまするゆえ、
お待ちしてございます。」
「うむ。う、ぐ、殺れ。」
いざ参らん、禁忌を越えて!!
動乱吹き荒ぶ
戦国の世に、又舞い戻らんと!
御羽黒の蜻蛉なぞ、
切り捨てん!
戻れ燃ゆる茅の輪時!
我が身を、待つは 天下のみ!
終
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