愛着

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愛着

134d2c01-fb50-4210-a64f-fb201df1207d ラリーとグレアムが浮かれている。 モナが地元でクレイグ・スノーデンと結婚した後、クレイグと共に首都で乳製品販売(チーズやヨーグルトのような発酵食品)を販売する商売を手伝う事になったらしい。 つまり学園を卒業した後 地元に帰っていたモナが首都に戻ってくるのだ。 ヴァーノンもまた、研究にひと段落ついて長期休暇を取って首都に来るという事なので 「久しぶりに兄妹全員が揃う」 と彼らは楽しみにしている。 それがラリーとグレアムが浮かれてる理由。 (…血縁者か…) と少し羨ましく思う。 私は樹海に捨てられてたので… 自分の血縁者に関して何も知らない。 そもそも【地球世界】にいた頃にも血縁者とは縁が薄かった。 輪廻転生の仕組みは「植物の繁殖法」と似てる側面もある。 宿根草が冬の間は地中で沈黙していて春になると 同じ根から生えてくるように 「子孫・血縁」 を通じて転生し続ける【参入者】も多い。 鳥に食べられた実に含まれる種やタンポポの綿毛などのように 「遠くに運ばれて自分一人で発芽し生きる」 ような転生をする【参入者】もいる。 後者は【世界】を流浪する旅人で、基本的に血縁者との縁は薄い。 私はそうした転生を繰り返していたので… 血縁者同士の絆に関して理解も共鳴もできない面がある。 人間として生きていた最後の生でも、実の親から 「頼ってくるな、帰ってくるな」 と引導を渡されて切り捨てられた身だ。 ヘルマンの代わりに生きた生でも… ヘルマンの家族は常に貧困と社会的締め付けに悩まされていて 慢性的に精神的余裕が無く とてもじゃないが優しくしてもらった覚えが無い。 どんなに求めても得られなかったモノだから… 「求めるという選択肢」 さえも自分の中から消え失せたモノ…。 それが肉親・血縁者への愛着。 一方でーー 愛着・執着で良い思いを沢山した人達は薬物中毒者のように、それを求め続ける。 執拗かつ粘着に。 私にはそういった生き方が「黄泉屁喰い」のように見えた。 黄泉の国で黄泉の国の食べ物を食べると 黄泉から抜けられなくなるのだという概念。 「ダブルスタンダードな天国で良い思いをすると、そこがダブルスタンダードな地獄に変わっても、そこに居続けなければならない」 という魂に科せられる制限。 それが降りかかるように見える。 そんな風に見えるのは私が血縁者とも他人とも縁が薄い薄情な放浪者だからなのかも知れないけど… 私は「自分が自分である事をやめられない」。 どうしても愛着に溺れる人達に共鳴できない。 いつも独りぼっちで味方が居ない状態。 精神から自律性が奪われて貧困に追いやられれば 簡単に絶望させられ自死へ追いやられる。 それが魂の放浪者に科せられている制限。 精神の自律性。 生活の自立性。 そういったモノは癒着主義の多数決社会では常に脅かされる。 放浪者は常に弱者であり常に奪われ続けるだけ…。 だから放浪者は 「人間」 「人間社会」 というモノ自体に根深い忌避感を持つ。 今世で師匠と出会って 「人間社会と無縁に自然の中で生きる」 ための術を授かった事は運が良い。 今は師匠の言いつけ通り人間社会で暮らすし、ラリーがそばに居ろと言う限り、そばに居るつもりだけど… いつかラリーは私に飽きて私を求めなくなる。 そうなった時にーー また樹海に戻って人間社会と無縁の暮らしに戻りたいと思ってる。 根本的に私には人間社会の癒着主義が合わない。 人間社会の癒着主義に夢を見るには… 余りにも人間社会の癒着主義からは酷い目に遭わされ過ぎた…。 「鬼は外、福は内」といったダブルスタンダードな天国と地獄。 誠実で居続ければ「福は内」の仲間意識に組み込んでもらえるのだと… そう信じて人間社会に囚われ続けたものの… 最期まで報われる事なく、どこまでもどこまでも搾り取られた。 何もかも奪われて… 無能な弱者として 誠実であるが故に 切り捨てられる運命…。 それを繰り返し… 「人間社会」 というモノに対する夢も希望も消えた…。 私やヘルマンのような存在が体験した一連の運命…。 それは師匠も おそらくは「女神」と呼ばれている者も… それを経てきている。 私達のような放浪者は人間社会に囚われてはーー いつか逃げ出していくーー。
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