「知る」という宿命

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「知る」という宿命

d523627d-93d6-4828-87e1-9482fa3beae4 「アンタレス草原での負傷兵運搬の仕事の時に、お前と同じ髪の色のヤツがいたのを覚えてるか?」 とラリーが訊いてきたのは… (お前にも血縁者が居ない訳じゃないんじゃないか?) という希望的観測からだと思う。 自分だけ身内との絆がある事に対して 無意識のうちに後ろめたさを感じたのだろう。 (ラリーは優しいよね…) と思いながら 「そう言えば居たね…。そんな人も」 と返事をした。 皆が皆 「完治するとまた徴兵されるだろうから、後遺症が残るくらいで丁度良い」 と言って、完治させる治療を断った中で一人だけ完治を望んだ負傷兵…。 「マックス」と呼ばれてた男…。 瞳の色は私のような赤目ではなく、茶色とも橙色ともつかない色だったものの…髪の色は私と同じ明るい赤銅色だった。 「家族は居ない。孤児だ」 と言っていたし… 私のような髪の色がマゲイア圏で珍しい色なのだとしたら… もしかしたらどこかで血が繋がっている可能性は有るのかも知れない。 だけど 「血縁者から大事にされた経験が無い」 ので、そうした事に自分の中で意味を感じるのは難しい…。 それでもラリーは自分が血縁者に愛着を感じるように 私の中にもそういう感性が眠っている筈だと思うらしくて… 「マクシミリアン・ノヴァーリス…。おそらくはユーベルヴェグ族の孤児。特約契約者では無かったが、全体的にステータス値が高かった。没落した名家の生き残りといった感じだろうな…。 …お前も孤児でアイツも孤児だという事で、俺としては内心でお前達に血縁関係があるんじゃないかと疑っていた。 だからアイツの事は機会がある度に読心してはいたが…お前と同じ年頃の生き別れの妹がいるとかいう事でも無かったし。…血縁関係があっても互いの消息も知れないような遠縁とかになるんだろうな、と思ったんだ。 …それでもお前達のような明るい赤銅色の髪は珍しいからな。『ノヴァーリス』という姓から何か分かったら知らせてくれるように『ファーヴニスバニ』のメンバーに頼んではおいた。 未だに便りが無い所を見ると、何も分からなかったか…或いは『知らせるな』と干渉が入ったか、どちらかなんだろうがな…」 と言い出した。 「ラリー。私は別に血縁者とか、自分の血のルーツとか、そういうのはどうでも良いよ。何も知らないより何か知ってた方が良いのかも知れないけど。知ったからといって何か自分にとって具体的に役立つとも思えないんだ」 「…そうか…」 ラリーには私が無理をして血縁者との絆を求めまいとしてるように見えるのかも知れなかった…。 本当にそうじゃなくて…私は「独りは寂しい」と思うものの 「人間はどこまでもどこまでも独りだ」 という真実を知ってる。 本当に無理をしているわけじゃない。 凍えるような絶対零度の冷たい宇宙空間。 その本質である「虚無」の広がる反物質空間…。 その冷たい宇宙(セカイ)をたった独りで彷徨い続けた【視聴者】だからこそ人間社会の中にある情緒的幻想に染まりきれないのだ…。 ラリーは【視聴者】ほど空間に対する認知力が無いから… 「情緒の共有」が「幻想だ」という事実を リアリティーをもって理解する事ができてないのだ。 「人間は誰もが親近者からの愛情を必要とする」 という幻想にドップリ耽っている人達からすれば そうした幻想に染まりれない人間が薄情に見えるだろうし… 薄情な人間が社会的弱者であれば 「惨めで可哀想な人間だ」 と未熟者のコミュ障を蔑む心理が起こるのかも知れない。 癒着主義による幻想はドラマの刻まれたディスクのようなもの。 幻想は多種多様。 そんな中で 「犬肉は犬を残酷に殴り殺す事で旨さを増す」 という価値観を共有していた人間達もいた。 ダブルスタンダード過ぎる幻想世界。 気持ち悪くて魅力など欠片もなかった。 集団ナルシシズムに耽りながら徹底して標的を虐待・搾取。 加害者のクセに被害者を詐称。 最後の最後までダブルスタンダード固定にしがみついた人達…。 マトモな人間から見ればーー 「犬肉は犬を残酷に殴り殺す事で旨さを増す」 という文化を持つ人達が 「因縁つけた標的を犬に擬えて虐待・搾取の限りを尽くす」 在り方など 「呪われるべき鬼畜な生き物」 にしか見えない。 そうした呪われるべき鬼畜な人間達はーー 罪と贖いを繰り返して愛すべき幻想を紡ぐマトモな人達とは 根本的に違う。 【地球世界】では 呪われるべき鬼畜な人間達の多くが【逸脱者】だった。 この【金令世界】では 呪われるべき鬼畜な人間達に 「ちゃんと魂レベルの破滅が訪れてくれるのか」 は今のところ不透明。 だけどーー いつか判るのだと思う。 「知る」という宿命によっていつかーー 「この世界に【視聴者】が居るのか?」 「呪われるべき人達は【逸脱者】として滅びるのか?」 その疑問の答えが私の元に訪れるのだと思う…。
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