無能《ニート》化の推進と奴隷量産

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無能《ニート》化の推進と奴隷量産

737a9591-4ef6-4868-9445-8492a1356002 モナが首都(ロチェスター)で始めた乳製品販売の目玉は『チーズケーキ』。 コンフォース国の人間は粗食の者が多く、モーペルテュイ国などではフツーに凝った料理が作られているのに、コンフォース国では料理もスイーツも種類が少ない。 「素材本来の味を損なうような、何が入ってるか判らなくなるような食べ物を好まない」 というスタンスがコンフォース人の食の傾向らしい。 そんな中にあってチーズケーキのようなチーズの風味を活かしたスイーツはウケが良い。 「美味しいだけでなく素材の味を活かしている。何が入ってるか判らないような無駄に複雑な味じゃない」 という食べ物がコンフォース人達の好みに適うものらしかった。 ただしレシピは秘匿されている。 なのでチーズだけ買って自宅でチーズケーキの味を再現、といった事はスノーデン家の料理人以外の者には真似できない。 こういったレシピの秘匿や料理技術・経験の剥奪はかなりセコイ。 農村の者達に対しては「自宅でパンを焼く」事さえ禁止されている。 「農民達が収穫量を誤魔化して税(穀物)を少なく納めているのかも知れない」という疑惑解消のために 「農民達は自宅でパンを焼くな、麦(穀物)をパン屋に預けて、職人に大釜で焼かせた物を食うようにしろ」 という法律が施行されてしまいーー 数十年経てばーー 農民達は自宅でパンを焼く料理技術を失っていた…。 パン屋に支払う「加工料」に加えて「技術料」まで上乗せされてもパンが食べたければ文句も言えない状態になった。 アレコレ禁止して技術を失わせ、単純労働しかできない状態にまで無能(ニート)化。 そうしてから二重・三重に搾取。 なんともセコイ手口の農民奴隷化政策。 やられてる農民達が 「技術を失わせられ無能(ニート)化させられる事は、施政者達の悪政を退け自立する選択肢を奪われていく事だ」 という真実に気づかずにいられるのが、これまた不思議な話だが…。 そうした手口はマゲイア圏全体で施行されている。 農民達(農奴達)は反抗の気配すらなく 無能(ニート)化させられ 労働の価値自体を安値で買い叩かれ 「食べていくだけでやっと」 という状態にされて大人しくしているのだから… 「文字の読み書きを無償で教えて識字率を高めたところで、社会の仕組みがオカシイ事に気がつく客観的知性は宿らない」 のがよく判る。 【地球世界】のモノカルチャー経済などもまた同じ仕組み。 国というモノは 「多方面の技術が国民の間で受け継がれ続ける」 事が、国としての纏まりの土壌となる。 食糧生産・食料加工。 そういったモノに加えて生活に必要な道具作りも。 諸々の技術を後の世代へと受け継いでいくからーー 施政(必要悪)のフリをした支配(不必要悪)に囲い込まれた時でも 「お前は要らない」 と偉そうな連中に言い切ってやれるし 迷いのない排除を行える。 それが特定の単純労働に特化し それ以外の事は何もできない無能(ニート)が量産されると 不条理な支配にも従属するしかない奴隷の量産に早変わり…。 今やーー マゲイア圏の各国で農奴が量産されている…。 もちろん、そうした 「分業的単純労働への特化」 「総体的生活技術の衰退誘導」 は農民だけに降りかかってる訳じゃない。 スノーデン家が仕切ってる畜産・羊毛・乳製品業界も同様。 凡ゆる側面でそういった 「庶民の無能(ニート)化・奴隷化」 は進められている。 コンフォース国のみならず、マゲイア圏の全ての国で。 派閥というコネクションに属さない庶民だという ただそれだけでーー 「分業的単純労働への特化」 「総体的生活技術の衰退誘導」 が降りかかり… 「ただ流された」 というだけでいつの間にか奴隷化されてしまう。 逃げる事も出来ず 反抗心さえも去勢され 生きる気力すらも削られ喪っていく…。 せめて同じ奴隷同士で 身内同士で心を温め合いたい。 そう思う想いさえ歪められーー 「切り捨て排除の標的は身内から出すように」 と仕向けられる。 「報復してくるリスクの低い弱者」 「孤立無縁の嫌われ者」 そういった者達が切り捨てられる…。 搾取者側に良心があるなら 「重複した搾取の網が民草を蝕み尽くしている」 事実に気づき 「少しでも負担を軽減してやるべきだ」 と思う筈だが… 「貧しい者達は貧しさに相応しく愚鈍で怠け者だから貧しいのだ」 と欺瞞に耽る者達が次々に湧く。 なのにーー 挙句「金持ち喧嘩せず」などという連帯に耽り 「民草を蝕み尽くす」という選択をする外道まで湧いて出る。 そうなると庶民は底無しの地獄へ堕とされてしまう…。 首都の街並みの美しさ、豊かさ。 華やかな衣装やアクセサリー。 美麗な家具や雑貨。 新鮮な食品、美味しい食事、チーズケーキ。 そういったモノを素直に 「素晴らしい」 と認めてあげるには… 人間社会というモノは余りにもーー 何も知らない人々の在り方をイビツに歪め卑しめている。 私がこの世界の植物に「有益たれ」と変身・変化させるのは… 公平な契約に基づく幻影術。 つまり 「(対象自身のためにもなる形で)対象の価値を高める」 錬金術だ。 一方でーー 人間社会の舵取りをして人間社会を創造している人達がやってる庶民の奴隷化は変身・変化が対象のためになっていない不公平な、ダブルスタンダードな幻影術…。 モナが 「お店のチーズケーキが今日も完売したんだよ」 とラリーに対して微笑む顔は無邪気そのもの。 客層は主に中流層以上の小金持ち。 商売が軌道に乗れば誰だって嬉しい。 仕事にやりがいだって感じられる。 その気持ちは判る。 こんな社会であってもーー 人は 「苦しみ・悲しみがなすりつけられてる環境」 から遠ざかってしまえば案外幸せが感じられるものなのだ。 適応してしまえるものなのだ。 それは 「悪いことじゃない」 筈なのだけど… 私にはそうした幸せを無邪気に楽しむのが難しい。 トレヴァー・チャリングの言っていた 「俺達は人間社会に満ち溢れてる『弱者殺しの法則』を覆せないままに潰された『無数の天才(ゲニウス)達の(しかばね)』の上に立って生きてるんだ。 妖怪に仕えながらも妖怪とは馴れ合うな。踏み込むな、踏み込ませるな」 という言葉が不意に蘇ってくる…。 『弱者殺しの法則』を覆せないままに潰された無数の天才(ゲニウス)達ーー。 その屍の上に立って生きてる私達ーー。 両者の間に 「繋がっていけなくなる程の温度差」 が生まれても… それでも 「犠牲者達から赦され愛されるほど無垢で居られるのなら」 仮初めの幸せに埋没してしまえるのかも知れない。 だけど私にはそれは難しい…。 モナのように心から笑顔になることはできない。 こんな世の中では本当に幸福感を感じる事などできない。 モナの笑顔は私には別世界の人のように遠く感じられる。 一方でラリーやグレアムは モナの笑顔が別世界のような笑顔だからこそ 「それを守りたい」 と思う人達なのだ…。 バカな人達ーー。 バカな男達ーー。
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