ファーヴニスバニ

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ファーヴニスバニ

a33f0e2c-02d1-4486-a843-22889be63d89 師匠が言ってたようにローレンス以下の猿人達は「傭兵」という仕事に従事している者達だった。 猿人達の軍隊がアンタレス草原を西へ横断中。 北上して樹海を抜け、マテシス圏へ入る予定らしい。 本来は辺境の街で活動している高ランク冒険者達のクラン。 それが傭兵として雇われ、軍への物資補給、兼、負傷兵の送還を請け負っている。 今は追軍中で食糧や薬品や武器を運んでいた。 その途中で荷車が壊れてしまい、立ち往生。 修繕に何か使えそうなモノは見つからないものかと… 数名が北上して樹海に入った。 そこでローレンスが私と遭遇した、といった事情だった。 本来なら自由気ままな冒険者である筈の彼ら。 冒険者は無保障・自己責任の仕事だからこそ、嫌な仕事を断る権利もあり、自由。 そんな彼らが自らの自由を制限しながら団結のために有志結社に帰属している。 それが『竜殺し(ファーヴニスバニ)』という名の結社(クラン)。 当人達は『憂国義賊団』と自称してる。 そうした一団…。 私がローレンスに連れられて合流すると誰もが ((((((えっ?何?)))))) といった様子で目を見張ったのに… 誰一人としてローレンスにアレコレ詮索めいた質問をして来なかった。 そうした反応に対して私のほうが (えっ?何?) と思ってたのだけど… アンタレス草原をひたすら西へ向かう旅路を共にすることで (ローレンスに何か意見するのが怖いから誰も何も言わずにただ従ってるだけなんだな…) と気がついた。 何度となく猛獣に襲撃されて 誰もがそれなりに苦戦してるのに ローレンスはバッサリとナイフでバターでも切るように 猛獣を呆気なく斬り捨てる…。 真面目で滅多に軽口も叩かない。 ハッキリ言って怖い…。 近寄り難い。 一見すると孤立してるようにさえ見えるのにーー 冒険者やら傭兵などといった戦闘職では「強さ=リスペクト」という心理が働くらしくて、ローレンスを悪く思ってる者はいない様子。 私に対しては周りは「どう扱ったら良いのか判らない」といった調子で持て余し気味…。 とは言え。 アンタレス草原の横断も順調に進みーー マゲイア圏の四国モーペルテュイ国、シュティルナー国、コンフォース国、ブレンターノ国の連合軍への合流、物資補給が無事に果たされた。 連合軍の騎士が私に対して不審な目を向けたので (うん。こういう反応がフツーだよね。変わった旅装束を着た女の子が傭兵と行動を共にする理由なんて無いと思うし、明らかに不審だよね…) と思ってしまったのだけど 「…ずいぶんと気が効いてるな。…女も慰安のために連れて来たのか?」 と言われてグイッと引っ張られ (はぁ?慰安?…何それ?) と混乱してしまい、そのまま抱え上げられて運ばれそうになった。 傭兵団の者達が 「ち、違います!その子はウチの専属の薬師です!副団長の妹なんで、何かあったら俺達が殺されます!」 と言って血相変えて止めてくれたので、そのままさらわれる事態は避けられた…。 ローレンスは私に対して特に何も言ってくることもないし、私のことで周りに何か説明した風でもないのに… 何故か傭兵団の者達から見ると、私に何かあったら自分達がローレンスに殺されると思ってるらしいことが判った…。 ともかく猿人達ーー人間達が住むマゲイア圏にはモーペルテュイ国、シュティルナー国、コンフォース国、ブレンターノ国の四つの国々があるのだという事が分かった。 どんな力関係が働いてるのかは不明ながら… シュティルナー国は最も多く兵を出して居ながら、四国の中で最も立場が弱いように見えた。 連合軍の中でも威張ってるのはモーペルテュイ国の騎士達とコンフォース国の騎士達。 傭兵団『ファーヴニスバニ』の面々も聴くところによるとコンフォース国の人間。それが何故かシュティルナー国に住んでいる。 補給された物資はいずれもシュティルナー国から徴収されたもの。 『ファーヴニスバニ』のようなシュティルナー国在住のコンフォース人達が雇われたのも… 「シュティルナー人に補給便の運搬業務を任せると『我が国から搾取されたものだ』と被害妄想的な考えを起こして横領する可能性が高い」 と連合国軍の上層が判断したから、ということらしい。 何やら複雑な国際事情がありそうな気配はある。 だけどそういった人間達の社会事情に関しては私は何ら予備知識を持たなかった…。
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