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不干渉という存在許容
この世に「神様」というものがあるという保証もないのに…
それを崇める人達がいて
この世に「悪魔」というものがあるという保証もないのに…
それを憎む人達がいる。
自分が見たわけでもなく
自分で本性を確認したわけでもない物に対して
本気で愛したり憎んだりできる人達がいる。
私にはそうした現象が不思議で堪らなかった…。
****************
樹海と呼ばれる広大な森…。
その森の南側に私は師匠と共に住んでいた。
森を抜けて更に南側へ向かうと不毛の地が広がっている…。
…草も生えない不毛の地、砂漠。
何故そんな不毛の地がこの世に存在するのかが不思議だ。
森には魔物もいれば野生動物も虫も居る。
暮らしやすいとは言えない環境だけど…
それでも草も生えない不毛の地よりはマシ。
森と砂漠との間に広がる草原地帯は草食の野生動物が餌をあさる場所であると同時に肉食獣の狩場でもある。
魔物は「冷涼な森の中の環境を好む」という性質があるので草原地帯や砂漠にまで来る事は滅多にない。
魔物は主に広大な森である樹海の中で繁殖している。
なので森の中では野生動物達は常に魔物の脅威に晒されている。
その結果、棲み分けとして
「隠れるのが上手い小型の野生動物は魔物と共に森の中で暮らす」
「俊足自慢の大型の野生動物は草原で暮らす」
といった分布が出てきても不思議はない。
生き物は棲み分ける。
それはもう生命の法則と言っても良い。
餌でさえも
「誰も食べない毒草を消化できる消化器官があるなら誰も食べない毒草を好んで食べる」
ようになる。
異種間交流などといったものは通常は起こらず
生き物はただ棲み分けることで共生している。
それが普通の在り方。
そういった「棲み分け不干渉」的な共生方法は「存在の許容」を含んでいる。
なのに猿人族は相手を憎みながら相手の領土を侵し
わざわざ殺し合いをしたがる基地外が多い。
猿人族は狡猾で残虐。
樹海によって隔てられている獣人族達の住む国々に対して、ことあるごとに侵攻・虐殺・略奪を繰り返している…。
師匠からは耳にタコができるくらいに
「猿人族には気をつけろ!」
「獣人族にも気をつけろ!」
と言われていた。
私達を脅かしながらも守っていた森のおかげで
私は長いこと「ヒト」というものについて
何も実感的知識を持たずに暮らして来ていた…。
正直、深く考えた事もなかった。
師匠のアウィス・ヘルメティスはリス型の獣人で
私は猿人族、いわゆる「人間」。
森で暮らす私達二人に種族の違いがあるのだということを…。
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