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「僕のこと・・・怖いよね」
「・・・」
ベッドのリクライニングのお陰でも座っているのがやっとに見える
「・・・ごめんなさい」
尊君はそう言うと同時に
ポタポタと涙を溢した
「大切に、ずっと大切に思ってきた
ゆーちゃんを閉じ込めてごめんなさい」
ポツリ、ポツリと紡がれる尊君の懺悔は
思い出した記憶を更に深める
「ゆーちゃんの記憶喪失をどうしても受け入れられなくて
あの日、記憶を失ってるんじゃなくて
僕との思い出を忘れたと疑ってしまったんだ・・・」
白詰草の指輪をした写真を見覚えがないと言った私のこと
付き合っていないと言いながら自力で逃げることを諦めた私のこと
「ずっとゆーちゃんだけを思ってきた僕の気持ちを踏み躙られたと思った」
不自由な身体で何度も何度も謝罪する尊君は
溢れる涙を拭うこともせず
言い訳もせず
素直な言葉を使って頭を下げた
「プールに落ちた日から会えなくなって
それでも諦めきれなくて・・・
母さんに聞いたけど教えてもらえなくて・・・」
十二年後
通っている高校に私が転校して来た
「名前より先に、変装してても僕は一目でゆーちゃんだと気付いたよ」
「・・・」
「あの日貰ったお礼は・・・僕を見て欲しかっただけなんだ」
でも、私はファーストキスを奪われたと思って涙を流した
「泣くほど嫌だった・・・よね」
嫌だったというより
「あれは、驚いて」
の方が正しい
「僕の記憶は繋がっているけど・・・
ゆーちゃんは初対面と同じだったんだもんね」
唇を噛み締めた尊君は悔しそうに顔を歪ませた
「離れに連れ込んだのは
ゆーちゃんの記憶回復の起爆剤にするつもりだった
ずっと二人で一緒に居れば何かのキッカケで思い出すかもしれないって思ったんだ
当面の食料を調達するために外に出たら縁に捕まった」
「それでこの怪我を?」
「罰だよ
意識が戻ってゆーちゃんを助けて欲しいとお願いしたら既にアメリカへ行った後で
まさか縁が離れを壊してまでゆーちゃんを連れ出すなんて思わなくて・・・」
そこまで言うと悔しそうに顔を歪めた尊君は
不自由な身体を折り曲げて
「ごめんなさい」と繰り返した
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