手繰り寄せた記憶

2/4
前へ
/95ページ
次へ
「僕ね、ゆーちゃん以外を好きにはなれなくて このアルバムだけをいつも見てた」 ファンクラブまであったのに 縁のように保健室に連れ込んだりしなかったのだろうか 「信じて貰えないかもしれないけど ・・・神に誓ってそれはないよ」 少し膨れた頬は私の頭の中を読んだのだろうか コロコロと表情の変わる尊君は今はとてもわかりやすい 「それは、信じるよ」 「・・・良かった」 一枚、一枚と捲るたび 穏やかだった二人の時が昨日のことのように思い出されて懐かしい そして・・・ 「・・・っ」 白詰草の指輪をして キスをしている写真で指が止まった そうだ 結婚するって何度も何度もキスをした 記憶にあるファーストキスも 忘れていたファーストキスも どちらも尊君だった 尊君のアルバムの写真には 一枚も縁は写っていなかった だからなのか・・・ 此処に来た時よりも気分はずっと落ち着いている アルバムを見ている私を 鼻を啜りながら見ている尊君 その視線に釣られるように顔を上げると泣き笑いの表情が見えた 「痛い?」 「・・・慣れた、かな」 「ミイラみたいだもんね」 「・・・っ、クッ、痛っ」 吹き出そうとして顔を歪めた尊君 「大丈夫?」 「・・・っ、へ、、いき」 「尊は肋骨も六本骨折してるから 笑うとまだ辛いんだと思うよ」 慌てる私に尊君のお父さんが苦しそうな訳を話してくれた 「肋骨も、ってことは他にも?」 「鎖骨と左手首と右脚は複雑骨折で」 ミイラの説明を聞いているだけで 痛くもないのに身体の軋む音が聞こえる気がした
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1645人が本棚に入れています
本棚に追加