新たな道

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新たな道

「こんにちは」 「いらっしゃい」 窓辺に立って振り返っている尊君は 片方だけ松葉杖を器用に使って近づいて来た 「大丈夫?」 「うん、平気」 まだギプスの取れない脚と腕 鎖骨と肋骨は窮屈そうなコルセット それ以外は頭の包帯もなくなったし 随分と王子様になってきた 「起きてて平気なの?」 「ゆーちゃんが来るのを窓から見てたよ」 「そっか」 私が来るのを楽しみにしてくれているみたいで嬉しい ソファに腰掛ける尊君を介助して向かい側に座る 間のテーブルの上に置いたバスケットを凝視する尊君が可笑しくて 「フフ」 笑いが出た 「え、なんで笑ったの?」 「だって・・・バスケット見過ぎ」 クスクス笑う私と恥ずかしそうに頭を掻く尊君 あまり意地悪しないように ネタバラシすることにした 「お天気が良いから屋上で食べようと思ってね サンドイッチとスープを作って来たの」 「・・・嬉しい」 尊君は外傷だけだから食事の制限はない 私の来るお昼だけでもと差し入れの許可を貰った 卒業式を待つだけの暇な毎日に楽しみが増えたから これは自分の為でもある ううん・・・ 尊君の懺悔を聞いたあの日 もう二度と会わないと尊君の決意を聞いた後で ホッとするはずの気持ちが どうにも晴れなくて 結局、悩んで出した答えは 尊君に会いに来ることだった 尊君のお父さんは喜んでくれたけれど 同時に二人きりで会うことを反対もされた 悩む私に最後は 『結が決めたことだから』とパパが背中を押してくれた
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