メーデー・メーデー・メーデー

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「はい。到着」 出来るだけ離れて座っていたはずなのに ジワリ、ジワリと近づいてきた彼の所為で居心地は最悪だった 「ここは・・・」 「俺ん家」 「どうして?」 「一目惚れ」 「・・・は?」 「うさぎに一目惚れしたの。だから今日からうさぎは俺の物」 「は?」 頭、大丈夫だろうか? 百歩譲って一目惚れまでは許す でも・・・ 一目惚れしたからって“俺の物”発言はおかしい 「帰ります。これは立派な犯罪です」 黒縁フレームを指でグイと押し上げて真っ直ぐ彼を睨めば 「なにそれ、ウケる」 クスクスと笑った彼は 「ほら、降りるよ」 腕を掴んで車の外へと引き摺り出した 「・・・っ」 文句を言ってやろうと思って見上げた先に美術館みたいなアートな家が見えた ・・・なにここ 「ほら、行くよ」 「いや、です」 「分かった、お茶だけ飲んだら今日は帰してあげるから」 彼は気怠げに髪をかきあげ「ほら」と手を差し伸べてくる 俺の物呼ばわりしておいて“帰してあげる”を信じるとでも思ったのなら短絡的思考だ 「帰りますっ」 まだ敷地に足を踏み入れただけ 走ればなんとかなる そんな私が一番短絡的思考だったのかもしれない 「ゔぅっ」 お腹に重い痛みを感じたと同時に景色が消えた
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