新たな道

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結局、病室でサンドイッチを食べて 本当は上手に作れたスープも褒めて貰った そして・・・ 「尊君、お薬飲んで」 尊君がお薬を飲み終わると いつも轟さんに連絡をする 「・・・あ、うん」 僅かに遅れた返事に気づかないフリをしてバッグの中の携帯電話を取り出した 「あの、ね、ゆーちゃん」 「ん?」 視線を尊君に向けたところで手の中の携帯電話が鳴り始めた [パパ] 尊君の言いかけた言葉も気になるけれど 行き先が分かっている私に態々かけてきたパパの電話の方を優先した 「ちょっとごめんね」 「うん。大丈夫」 病室の隅に移動して通話ボタンをタップした (結) 「パパ、どうしたの?」 (今、まだ尊君の病室?) 「うん、そうだよ」 (近くまで来てるから今日はパパが迎えに行くよ) 「・・・うん、分かった」 (もうすぐ着くけど出られそう?) 「うん」 (じゃあ正面玄関で) 「はーい」 もう少し尊君と話したかった気持ちを飲み込んで気持ちを切り替える クルリと振り返るとベッドの上で不安そうな顔をした尊君と目が合った 「パパが近くに居るんだって今日はこのまま帰るね」 出来るだけ笑顔を作ってみる テーブルの上のバスケットを持って 「尊君、お大事に」 「ゆーちゃん、ありがとう」 「うん」 なんだか逃げるような感じになって 後味が悪いけれど あのまま病室に居たら余計なことまで喋りそうで ちょうど良かったのかもしれない 「パパ、ありがとう」 「どういたしまして」 乗り込んだパパの車の中から轟さんには断りの電話をかけた 丁寧なサンドイッチのお礼を聞いて笑ったのを最後に 「またね」も「さよなら」も言わないまま 尊君と会えなくなった その日、家に帰ってパパから聞かされたのは 精神を病んだ縁が療養のために日本に帰って来るという話だった そして・・・ 私も卒業式に出られないままアメリカに発つことになった
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