新たな道

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━━━━━━四年後 「結〜」 「は〜い」 社会人になった私はオフィスビルではなくて ビーチに面した自宅で仕事をしている 砂浜を散歩することはあっても やっぱり泳ぐことは出来なくて ただ・・・ 水への憧れだけで住んでいる自宅も案外居心地が良い 「クライアントへのデータは鍵つけた?」 「もちろん」 「よっし、じゃあ行こうか」 「うん」 車に乗り込んでハンドルを握るのはパパ 大学卒業後、パパのアシスタントとして正式に社員になった私 社員とは言っても パパと私だけの小さな会社だけど それでもアメリカで積み重ねてきた実績が評価されていて パパの仕事は順調だ あれから、ママとは会っていない 日本で使っていた携帯電話は解約しているし なによりパパが会わせたくないようで ママの話題が出ることはない 「今日のクライアントだけどね」 「ん?」 「イギリスが拠点らしいよ」 「へぇ、そうなんだ」 「それと」 「ん?」 「アシスタントが王子様らしいよ」 「フフ、なにそれ」 「え?」 「パパの話『らしい』しか入ってないよ?」 「あ、あぁ、そう、だな」 「変なパパ」 そんなやり取りをしながら 着いたのは立ち眩みしそうな高層ビルが建ち並ぶ場所 途端に仕事の顔になるパパの隣で スッと背筋を伸ばした 『こちらでお待ち下さい』 『ありがとう』 通されたミーティングルームはオフィス街が見渡せる大きな窓が魅力的な部屋だった 「結、ごめん。ちょっとお手洗い」 パパが慌てて飛び出して行くのを笑って見送るとタブレットを出した コンコン 『失礼します』 パパより先にクライアントが来てしまったと慌てて立ち上がる そんな私の目の前に現れたのは 「・・・っ」 数年振りに見る王子様みたいな尊君だった 「久しぶりだね」 「・・・・・・ほんと」 状況が飲み込めなくて呆然と立ち尽くす私の向かい側まできた尊君は 「ずっと会いたかった」 王子様みたいなキラキラした笑顔を見せた 「綺麗になったね」 「そう、かな?」 「うん。とっても」 「ありがとう」
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