新たな道

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「・・・怪我」 「流石にもう、治ってるよ」 「そう、だよね」 「・・・・・・あ」 「ん?」 パパの言った“王子様”は尊君のことだった? それなら・・・ 慌てて飛び出したまま戻って来ないパパのことも 約束の時間を過ぎても揃わない部屋も納得がいく 「ゆーちゃん」 「・・・はい」 「今ね、イギリスで仕事してるんだ」 「そうなんだ」 「大学もイギリスだった」 この四年間、知りたいのにパパにも聞かなかった話を 尊君は向かい側に座ってひとつずつ話してくれた 「神楽坂コンツェルンは潰れたんだ」 「・・・っ」 実は二年前にパパから聞いていた 尊君のお父さんが代表を退いて瞬く間に経営難に陥った会社は 外資系の援助が入って少し持ち直しているというが 経営陣は一掃され神楽坂の名前も残さない新生会社として再建中だという 「父さんは薫さんと正式に離婚して 縁と薫さんは日本の静かな所で療養してる」 「・・・」 「僕は父さんと二人で起業したんだ とは言っても 財産は殆ど薫さんに渡したから一から出直し中」 それにしては 「尊君幸せそう」 「今はとても前向きに生きてる」 「良かった」 「ゆーちゃんも」 「うん。慣れないことばかりだけど 頑張ってると思う、よ?」 「「フフ」」 四年振りの尊君とのお喋りは あの頃みたいに穏やかで 何故だか胸がいっぱいになった 「・・・え、ちょ、ゆーちゃん?どうしたの?」 堪えきれずに溢れた涙に気づいた尊君が慌て始めた 「ごめんね、僕が現れたから」 眉を下げながらポケットからハンカチを出した尊君は 何度かそのハンカチを私に渡そうかどうか悩んだのち クシャリと握りしめて表情を曇らせた 「ち、がうの、そうじゃない」 「え」 「尊君に会えて、良かったと思ってる 四年前、さよならも言えずに会えなくなって それがずっと気掛かりだったから」 「・・・ありがとう、ゆーちゃん」
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