新たな道

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一度は間違えた道も 遠回りしたからこそ冷静に思い返せる 「ゆーちゃんは聞きたくないかもしれないけど」 そう前置きした尊君は縁のことを話してくれた 「一度だけ父さんと会いに行ったんだ 縁は別人みたいだった」 縁のお母さんにお前たちの所為だと罵られながらも会ったのは ちゃんとお別れしたかったからだという 「縁ね、ウサギのぬいぐるみを抱っこして ずっと「ごめんね」って謝ってた」 「・・・っ」 「たぶん、あんな形でしか表現出来なかったけど 縁もゆーちゃんのことが好きだったんだと思う だから、僕のことすら覚えていないのにずっとぬいぐるみに謝ってた」 歪んだ想いが心を壊した 考えているより現実は重くて それでも私にしたことを尊君と同様に悔いているなら 私もまた前を向ける 「教えてくれてありがとう」 身体のどこかに残っていた見えない枷が 漸く外れた気がした 「今日は仕事じゃないんだ」 「みたいだね」 「ゆーちゃんを俺たちの呪縛から解き放つのが目的だから」 「そっか」 「最後に握手しても良い?」 「うん」 サッと右手を出した尊君は泣き出しそうな顔で笑った 「ゆーちゃん、ごめんね。幸せになってね」 「たけちゃん、ありがとう」 温かな尊君の大きな手に触れても 嫌悪感は生まれなくて しっかり目を見てお礼が言えた テーブルを挟んでいるから 一定の距離を保ったまま 暫く掴んだ手を離せなかった 「ゆーちゃん、あのね」 「ん?」 「また・・・ううん・・・」 不安気に揺れる尊君の瞳から涙が溢れ落ちた 尊君の気持ちが痛いほど伝わって その気持ちの大きさに胸が苦しい これでお仕舞いにしても良い? もう二度と尊君に会えなくても後悔しない? これまでに何回もした自問自答 不安な気持ちがお互い様なら切れそうな未来を繋げたいはず 「イギリスから遊びに来る?」 「いい、の?」 「うん」 「いつでも、あ、いや 仕事を頑張ってお休みを貰うね」 「フフ、そうだね」 どちらからともなく外した手 途端に冷えていく右手に視線を落とす この切ない気持ちの正体を この四年間、嫌と言うほど考えていた 明日からまた遠く離れる距離を埋めるためにはどうすればいいのだろう
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