二人の距離

4/10
1627人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
━━━その日 いつもは家まで迎えに来てくれる尊君と大きなクリスマスツリーの下で待ち合わせをした カップルや家族連れ旅行客が次々と写真に収まっていく大きな木を少し離れて眺めていた 「ゆーちゃん。平気?」 「うん」 人混みが苦手な私を気遣って こうやって甘やかしてくれる尊君 「ツリーの下まで行ってみよう?」 だからクリスマスくらい頑張ってみようと尊君を誘ってみたのに 「ううん平気。ここの方がゆーちゃんの声が聞こえるから」 柔らかな笑顔でやんわりと断られた きっとこれも私が気を遣わないように考えられた尊君の優しさ 「・・・・・・反則」 やっぱり王子様だよって独言ちる 「ん?なに?聞こえなかったよ?」 その声まで拾ってしまったのか身長差を埋めるように首を傾けて耳を近づけてくるから いつまでも変わらないその優しさにフフと少し口元を緩めた 「あのね?」 「うん」 「好きよ」 「・・・っ」 至近距離で固まった尊君は錆びたロボットみたいにぎこちない動きで 口元を緩ませた得意気な私と視線を絡ませた その優しい瞳は瞬く間に涙で潤んで揺れていて 不意打ちが成功したことに心の中でガッツポーズをする 再会してからもずっと保たれた距離感は変わらなくて 尊君からは触れられたことがない だから・・・ 再会したあの日、頬にしたキス以外 私と尊君の間に恋人らしいことはなかった ・・・というより 恋人かどうかもわからない状態なのよね 毎日隙間を見つけてはやり取りするメッセージ 夜は必ず眠くなるまで長電話をして 飛行機のチケット代も大変なのに 必ずひと月に一度は 私に会うために空を飛んでくる 一緒に公園へ出掛けたり 食事やカフェ巡りとデートを重ねて 数え切れないくらい思い出は増え 私の中は尊君でいっぱいになった パパとの関係も良好で尊君がイギリスへ帰る前には 必ず三人で食事に出かけるほどになったのに 人一人分開いた二人の距離感は変わっていない
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!