二人の距離

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尊君の予約したホテルはクリスマスに色付く街を独占したような場所にあった ダウンライトで夜景を演出した部屋に入るなり 「綺麗」 子供みたいに駆け出して大きな窓に張り付いた 背後から優しく抱きしめてくれる尊君は 「ゆーちゃんの方が綺麗だよ」 甘い声で囁いた 触れられている背中が熱い 乱れた呼吸も、早く打つ心臓も きっと尊君にはバレている だから誤魔化さないと決めたのに 背後から回った腕に左手が取られたと思った瞬間 薬指を通った冷たい感触に 考えるより先に涙が落ちた 顔を少し上げると窓越しに尊君と視線が合う ありがとうって伝えたいのに 込み上げる熱い想いが邪魔をする クルリと身体を回転させて向き合うと 頭ひとつ分高い尊君を見上げた 変わらない優しい瞳に安心して その胸にオデコをつけた 俯いただけで簡単にこぼれ落ちる涙 尊君の未来を独占できることが こんなに嬉しいなんて メイクも気にならないくらい泣く私を ずっと抱きしめてくれた尊君 背中に回された手は気持ちを落ち着かせるかのように一定のリズムを打っていた ・・・ 時間をかけて 「ありがとう」を伝えたのに 薬指の指輪を見た瞬間 子供みたいに声をあげてまた泣くことになった ・・・ 子供の頃に貰った白詰草の指輪は 大人になってまた同じ指に収まった 「作った、の?」 「うん」 「素敵・・・ありがとう」 「喜んでもらえると僕も嬉しい」 変わらない優しさに緩めた頬に口付けた尊君は 「六歳のあの頃も二十六歳の今も変わらずゆーちゃんに恋してる」 左手を持ち上げて白詰草を模った指輪に口付けた 「ゆーちゃん」 「・・・たけ、ちゃん」 「幸せになろうね」 「うん」 ギュッと抱きついて背中に腕を回した
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