がんばるキミに恋してる

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がんばるキミに恋してる

 男性の理想と、女性の理想は往々にしてすれ違うものである。男性が考える“イケメン”と女性が考える“イケメン”は違う。男性が“こんな俺ってすげーイケてね?”と思ってるファッションや言動が女性からすると“キモい、セクハラでしかない、ドン引き”だったりするものだ。そしてそれは、逆も然りだろうと私は思っている。ようするに。――セーフラインというものが、私と彼で大きくことなるだろう、ということ。 「もー死ぬしかない」  私がげっそりと呟くと、職場の同僚である千晶(ちあき)“んな大袈裟な”と呆れかえった。ちなみにここは私と彼女が講師を務める塾、その休憩室である。二人でテーブルに向かい合ってお昼ご飯を食べている真っ最中だった。 「ちょっと太っただけでしょ。それで死んでたらこの世の中死体だらけになっちゃうわよ」 「うっさいな、私にとっては死活問題なんだっつの。この一カ月で五キロも増えちゃったんだよ。ヤバない?食欲の秋マジでハンパないわ」 「まあちょっとぽっちゃりしたなーと思ってたけど、秋はみんな太るでしょ。気にしすぎじゃない?あたしもちょっとお腹ヤバいしー」 「千晶は既婚者だからいーでしょうが!ていうか、あんたの太った、と私の太ったは全然レベルが違うの!」  彼女はわかっていない。彼女は太った、と言ったところで精々体重が五十キロ代の後半になった、程度なのだ。残念ながら私はまったくそんなレベルでないのである。 「ネットで見たけど、世の中の男って体重五十キロ越えたらもうデブって認識らしいんだよ」  じ、と目の前の弁当を見つめて私は思う。危機感があるわりに、うっかりコンビニで買ってしまった焼肉弁当。見るからに美味しそうなのは本当になんとかしてほしい。値段のわりにボリューミーだし、お肉も豪華。シックスマートのお気に入りである。 「私の体重それどころじゃないんだけど。プラス二十キロなんだけど。これもう女と見なされないレベルじゃない?」 「妃菜(ひな)さん妃菜さん?自分の身長わかってて言ってる?はっきり言うけど、あんためっちゃデカいじゃない。あんたの身長で体重五十キロ以下だったらガリガリだからね?胸もなくなっちゃうわよ?」 「わかってるけど!でも男は数字だけでしか見ないかもしんないでしょ、そういう現実知らないかもしれないでしょー!?」  実際、私は女性として見ると滅茶苦茶身長がデカい。エレベーターで男性と同乗すると、びっくりした顔で顔を見上げられることもあるくらいには。が、それでもなお、男どもときたら背が高い女であろうと体重はモデル並みに少なくて当たり前と本気で思っているらしいのだ。身長180cm近い女が体重四十キロ代だったら痩せすぎて倒れているレベルだという想定もないらしい。
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