がんばるキミに恋してる

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 ***  正確なきっかけを思い出すのは難しい。最初はただ、信頼のできる生徒、優しい男の子というイメージしかなかったと思う。彼の通っていた進学校、そのクラス担任となったのがたまたま私だった、それだけの話である。  冬樹は身長こそ高いものの、運動をするより絵を描く方が好きな大人しい生徒だった。印象としては精々“良く見ると可愛い顔してるな”くらいなものである。それが変わったのは恥ずかしながら、私がクラスの問題に行き詰って鬱になりかけたことが原因だった。  進学校だからといって、いじめが起きないとは限らない。むしろ、優等生たちがストレスを溜めこんだ結果、表向きは治安がいいのに裏では陰湿ないじめが繰り返されているなんてこともあるのだ。昔とは違って、男子のいじめも女子動揺水面下に潜ることが増えてきている。殴っても目に見えるところに痣が残るようなことはしないし、そもそも物理的暴力が一切ないケースも多い。物を隠したり、殴ったりではなく、見えないところの陰口でじわじわと相手の精神をヤスリで削るような行為も少なくないのだ。  カズキ、という名前の生徒が突然不登校になったのは、その年の秋のこと。夏休みが終わっても彼が登校してこなくなり、風邪を理由に休み続けるようになったのである。彼はテニス部に所属していて、けしてひ弱なタイプではなかった。何か悩み事でもあるのか、家庭訪問に行った方がいいのか――そんなことを思い始めた矢先、事件が起きてしまったのである。  カズキ少年が、自殺未遂を起こしたのだ。  幸い一命は取り留めたものの、学校でも大きな問題になってしまった。私はその一件が起きるまで、彼がいじめに遭っていることに本気で気づいていなかったのである。  私は学校に詰めかけた両親に、散々詰られる事となった。 『うちの子があんなに苦しんでいたのに、学校側は何をやっていたんですか!?いじめを学校ぐるみで隠していたんじゃないんですか!?』  気づけなかった原因は二つ。そのいじめが、主にネット上で行われていたこと。そして、私が女であったことだった。  LANEのグループに彼を誘っておきながら、カズキ少年が入った瞬間全員でグループから抜ける。  彼のLANEやメールに、彼の悪口を言っている匿名の裏掲示板のアドレスを貼りつけて送りつける。
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