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翌日、はやる気持ちを抑えて、公園に向かった。
亜弥は先に待っていた。
僕は開口一番、問いただしたかったが、ぐっと堪えた。
「亜弥、僕は君を信じたい。何か隠していることはないか?」
亜弥はハッとした様子で、しばらくうつむいた後、顔を上げた。
「私は亜弥じゃない。妹の千紗」
僕は空を仰いだ。
そして彼女を見つめた。
茶色がかった瞳、切れ長の目…
そっくりだ、亜弥と。
「大輝さんが家に遊びに来た時、私まだ小中学生ぐらい。憧れのお兄さんだった」
思い出した、運動着姿の少女を。
「どうして、黙っていたんだ」
「ごめんなさい。……姉と大輝さんは私の理想のカップルだったの。もっと続いて欲しかった」
僕はため息をついて、うな垂れた。
「大輝さんは私といるより、姉といる方が幸せだし、お似合いなんじゃないかと思った。私はずっと大輝さんに憧れていたから。そして、姉にも」
「うーん」腕を組んで唸った。
「このままじゃいけないって思ってた。姉が羨ましかったから、ずっと浸っていたかった。悪気はないの。ただ…、姉を越える自信がなかった」
僕は目をつぶって聞いていた。
「…わかった。もうこれ以上、この話はしないよ。もう少し時間をくれないか。頭が混乱している」
「ごめんなさい。私のせいで」
「君は反省した方がいい」
「…はい」
僕らはその後、解散した。
あれから、いっとき千紗を忘れるために、しばらく仕事に没頭していた。
休日、自分の部屋のベッドで横たわる。
僕と亜弥は、恋人でもあり同志という関係だった。
時には勉強を教え合い、お互い切磋琢磨したものだった。
亜弥がアメリカにいる。
僕に影響されて。
それもバリバリ働いて、現地に根ざしている。
ショックだった。
僕はアメリカが合わなかった。
夏はどこも冷房の効きすぎで寒いことや、冷凍で空輸された納豆が不味いことなど細かいところまで。
就職して多忙になると体調不良になり、やむなく辞職して帰国した。
初めての挫折と言っていい。
今、もし亜弥と再会できたとしても、付き合えたのか?
おそらく眩しい亜弥に気後れしてしまい、無理だろう。
負けた気がする。
どうしても自分と亜弥を比較してしまうからだ。
結局、自信がないということだ。
亜弥に対して自信がない…千紗も言っていた。
千紗と僕は似た者同士なのだろうか。
千紗は悪い人間ではない。
嘘と言っても、白い嘘。
彼女の強い眼差しが目に浮かぶ。
僕を愛してくれている。
しかし、何か引っかかるものがある。
事情は何であれ、やはり最初に正直に言って欲しかった。
魅力的な女性なのに。
スマートフォンを手に取って連絡した。
5年ぶりの再会。
千紗の顔には、かつての無邪気さは消え、大人の陰影が刻まれていた。
僕もそれなりに変わっただろう。
「千紗ちゃん、元気そうで良かった」
「大輝さんも顔色がいいね」
「やっと、わだかまりが解けたよ」
「私も」
そして2人は微笑んだ。
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