僕の好きな作家はいつも芥川賞を逃す。

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 夏休みの後半は宿題に追われて過ごすことになった。  俊と約束していた通り、俊と宇佐山とその他の俊の友達を集めて、俊の家で勉強会をすることになった。学校がもうすぐはじまるからか、宇佐山は夏休みのはじめに見たときのような金髪ではなくなっていた。しっかりと黒に染めている。不良に見えて、ちょっと真面目だ。  五人であつまってせかせかと課題のテキストに書き込んでいたが、ふと顔を上げると、隣に座る宇佐山は原稿用紙を広げてぼーっとしていた。 「読書感想文?」  僕は近寄って声をかけてみる。 「そうなんだよ。俺本全然読まないなりに一冊読んだんだけど、何書いたらいいかわからなくて。夏休みの宿題あとこれだけなんだけどな」  宇佐山は困った顔をして、ぽりぽりと頭を掻いた。 「え、他はもう全部終わってるの?」 「うん。俺、帰宅部だからさ。夏休み暇だし」  帰宅部なのにそこまで終わっていない僕は、少し後ろめたい気分になった。  簡単に読書感想文の書き方を宇佐山に教えてみると、 「よし、ちょっとやってみる」 とようやく原稿用紙にシャーペンを走らせ始めた。  現代文の読解の課題と読書感想文は早々に終わらせてしまったので友達にも教えることができた。しかし、数学や化学の課題がずっと残ったままになっていた。幸い、俊の友達の中に理系に偏っている人がいたので、お互いに教え合うことになった。  彼は夕陽と言って、同じクラスで俊と同じサッカー部だ。教室でもちょこちょこと声をかけてくれるが、それはすべて俊のおかげだ。僕自身、教室で本を読んでいるだけのやつで、なにも面白いことは言えやしないし、スポーツができるわけでもない。夕陽との接点は全くと言っていいほどないのだ。  でも夕陽はいいヤツで、僕を見かけると必ず挨拶をしてくれるし、時間があれば休み時間に僕の席に来ると「何読んでんの?」と話しかけてくれる。 「テストだと必ずここは出ると思うから、苦手ならやっといたほうがいいかも」  夕陽はそう言って夏休み課題のテキストをめくってとあるページを指差した。 「僕、理系のテストてんでダメだから助かるよ」  お礼を言って、僕はそのページに、筆箱から取り出した赤色の付箋を貼った。 「逆に俺、現代文全然終わってないからよかったらこのページから教えてほしい」  夕陽は初めの方のページを開いてみせた。それは僕がすっかり終わってしまったページなので、答えも知っている。 「あー、ここはね」  僕は夕陽に、解答を教えるのではなく、解き方のプロセスを教えた。人に現代文を教えるのは難しいが、要は自分の考えていることを言語化して伝えることが大切だ。わかってもらえたときの感動は大きい。  解き方を軽く教えると、彼は納得して問題を解き始めた。
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