僕の好きな作家はいつも芥川賞を逃す。

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 夜八時くらいになって、全員の宿題の終わりが見えてきた。夏休み中に終わりそうだ。 「そろそろ終わりにして、飯でも食いにいこうぜ」  俊がそう提案すると、みんなが乗って、僕たちは駅の近くにあるラーメン屋に行くことになった。俊以外のほとんどが駅を利用するから、ちょうどいい。  五人で入店すると、テーブル席に通される。僕たちは二人と三人に別れて向かい合って座った。  俊と宇佐山と夕陽、そして僕と相川というもの静かそうな、俊の中学校の友達だという子。その二組だ。 「夏休み、何してた?」  俊はみんなに質問を投げかけた。 「俺と夕陽は部活三昧だけどさ」 「そうだな」  俊が言って、夕陽も同意する。二人の肌は夏の初めに会ったときよりも茶色くなっていた。 「俺は夏休みの課題やって、昼寝してたらいつのまにか夏休みが終わりかけてる。あとは地元の友達と遊んでたかな」  宇佐山は言った。宇佐山らしい夏休みだ。 「相川は?」  俊が尋ねる。 「彼女とずっといたよ。高校離れたし、夏休みくらいはゆっくり会えるなって」  相川は何気なく言った。 「そういやお前そうだったな。ナツミちゃんとはうまくいってるんだな」  俊は言った。相川は中学校のときからずっと同級生と付き合っていたらしい。俊もよく知る同じ中学の子だという。  俺には無縁の話だ。うらやましい。 「ナツミの話は別にいいんだよ。俊しか知らねぇし。颯太は何してたんだ?」  照れ臭そうに言って、相川は僕のほうを見た。 「あー、僕は、親の実家に帰省として大阪行ったり、課題したり。あとはいつも通り好きな文豪の墓参りに行ったんだけど……」  そこで僕は似奈のことを思い出した。あまり「いつもどおり」ではない気がする。一瞬どういう言葉をつなぐか考えていると、俊はその隙を見逃さなかった。 「けど?」 「いや、あの、七月に行ったとき、同じ高校の制服の女の子がいてさ。高校の近くでもないし珍しいなぁと思ってたんだけど、たまたま八月に参りに行ったときもその子がいてさ。なんか文学の話で盛り上がって、仲良くなっちゃった」  僕は隠し事ができないたちだ。洗いざらい、似奈との出来事を話してしまった。 「はぁ⁉ お前、リア充かよ!」  俊は食いついてきて目を輝かせていた。こういった話を聞くのが大好きなやつなのだ。 「うわ、青春だな」  宇佐山もにやにやとする。そして相川に至っては、 「そういうときが一番楽しいもんさ」 とまで言ってのけて先輩風を吹かせていた。 「何も別にその子のことが好きになったとかじゃないよ。ただ一緒に昼ごはん食べて、文学っていいよねって話しただけ」  僕はあまりにもみんなの反応が過剰なのでごまかすように言ったが、それが墓穴を掘ることになった。 「一緒に昼飯まで食ったの⁉」  俊は目を丸くして、さらに食いついてくる。 「あぁもう、別にそんなんじゃないって。文学ファン友達だって」 「颯太にそういう出来事があるなんてなぁ。俺たちむさ苦しい夏だったぜ」  宇佐山はわざとらしく目元を覆った。  めちゃくちゃ冷やかしてくる。似奈の話はあまりしないようにしよう、と思ったが、またどうせ進展を訊かれるに違いない、ということに気づいてため息をついた。
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