僕の好きな作家はいつも芥川賞を逃す。

13/68
前へ
/68ページ
次へ
 その後も「何年生?」や「可愛かった?」など、いろんなことを訊かれ、ラーメンを食べ終わって店を出るまでその話でもちきりだった。  僕も嘘がつけないので、似奈と夏休み明けにまた会う約束をしていることまで話してしてしまったのだ。  そこで話の盛り上がりは絶好調に達し、みんなのニヤニヤはとまらなかった。  僕たちはその話で盛り上がりながらも駅で解散し、相川と俊は地元なので自転車、宇佐山と夕陽と僕の三人で電車に乗って帰ることになった。 「茶化して悪かったけどさ、颯太、ほんとにその子とまだなんもないんだな。ピュアすぎる」  宇佐山が言った。 「そうかなぁ。だってお互いのこと何も知らないのに、好きになるもなにもないでしょ。あと年上だし」  これは本心だ。似奈のことを僕はまだ何も知らない。芥川龍之介が好きだということと、二年生だということくらいだ。好きになるも何も、条件すら出揃っていない。それに僕はそういうことと無縁なのだ。 「そうかぁ。そういうもんなのか」  宇佐山はよくわからないというふうにぼんやりと答えた。  夕陽のおかげですべて夏休みの宿題が終わり、僕らは始業式を迎えた。  仲のいいクラスメイトとは宿題をやった日に会っているのでそれほど久しぶりではないが、ほかのクラスメイトとは一ヶ月ちょっとぶりで、髪型が大きく変わっている女子も少なくなかった。  男子の大半は真っ黒に日焼けしていた。焼けていないのは俺と宇佐山くらいだろうか。  宇佐山は学校に来るなり僕の机まできて、 「おかげで読書感想文終わったわ。ありがと」  と言ってくれた。 「全然いいよ。終わってよかったね」 と返すと、もう一度お礼を言って、自分の席に帰っていった。  宇佐山の読書感想文が完成しているか少し心配でもあったので、僕は少し安心する。  しかし僕は、昨日からずっと、似奈のことを考えていて、それが頭のキャパシティを食っていた。今日、あれから初めて似奈と会う。会って何を話せばいいんだろう。本の話をするほかないのだが。  全校生徒が体育館に集まり、校長先生の話を聞いている途中も、僕はそのことばかり考えていた。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加