僕の好きな作家はいつも芥川賞を逃す。

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 翌日登校すると、僕の机の周りには俊、宇佐山、夕陽、相川の四人が集まっていた。 「きたきたきた‼ 昨日、どうだった⁉」  俊は僕の顔を見るなり、問い詰め始めた。なんのことか訊くまでもないだろう。きっと昨日の似奈との出来事を聞きたいのだ。 「図書館倉庫に太宰治全集があった。それが収穫」  僕はそう言った。彼らの期待しているような進展など特にないし、僕自身がそれを望んでいるわけでもない。 「それはまぁ、よかったな。創太的には。あれ、高いんだろ」  夕陽はちょっとだけ意外そうな顔をした。彼は俊との繋がりで僕と関わりだした頃から、比較的本の話を楽しそうに聞いてくれる。夕陽は理系の本しか読まないが、一応本の価値はわかってくれているので僕としては嬉しい。 「え、まじでむこうの女の子どんな子なんだ?」  俊はわくわくする気持ちを抑えられていない。俊が割とこういうことに興味のあるやつだとは、あまり知らなかった。 「うーん……どんなって……この前言ってたみたいな文学少女だけど……」  それ以外に説明のしようがない。だって僕は似奈のことは何も知らないんだから。 「文学少女ってだけでなんか頭良さそうだな」  宇佐山が言った。 「まぁ、頭は良さそうだよ。成績とか全く知らないけど」  僕は適当にそう言った。実際成績は知らないが、彼女は語彙力が豊富で、言語能力が有り余っていそうな雰囲気があることはわかる。 「またなんかあったら言えよな」  俊はご機嫌だ。ウインクまでかましてきた。  また大盛り上がりになりそうなので、今日も会うことは彼らには伏せておくことにした。
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