僕の好きな作家はいつも芥川賞を逃す。

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 似奈が小説を書いていることを教えてくれてから、僕はたまに図書館倉庫で彼女の小説を読ませてもらうことになった。 「ここはもう少しこうしたほうがいいかも、って思うけど、僕が意見してもなぁ」  僕は彼女の小説に意見しようとするたびに、そういう類のことを口にしていた。 「もう、いいってば。小説読んで意見してくれるのなんて創太くんくらいしかいないんだから、ちゃんと気になるところは言って」  似奈はそのたびにちょっと苛立っていた。僕があまりにも煮え切らないせいだろう。彼女は僕に意見を求めていた。彼女が言った通り、小説を読んで意見をしてくれる人があまりいないらしい。僕は似奈の中で、貴重な存在らしかった。 「うーん……じゃあ言うけど、ここの表現変えたほうがよくない? なんか気持ち悪いよ」  僕はストレートに言ってみた。あやふやなことを言うと似奈が怒る。ならば、思ったことをはっきりと言ってみよう。 「気持ち悪いって何よ。言い方悪いなぁ。……確かにこの表現はダメだね」  文句を言いながらも、パソコンを覗き込んだ似奈は納得する。ぽちぽちとキーボードを押して、当たり障りのない表現に変えた。  墓で出会って、図書館倉庫で会うようになって、二週間くらいが経とうとしていた。  夏休みの宿題の確認テストが全科目終わり、返却もされた。俊たちは、全員缶詰になって勉強したおかげで前より点数が上がっていた。僕も相川のおかげで、理系の点数がそれなりに上がっていた。追試もなく、安心な点数だった。  似奈はというと、テストが返却された日、図書館倉庫の二階の机に自分の答案を並べ、僕に見せつけてきた。  ほとんどが九十点を超えているという異様な点数だった。中には満点もある。 「……何これ」  僕は図書館倉庫に来るや否やいきなり高得点だらけの答案を見せつけられ、面食らってしまった。 「じゃーん。私のテストです」 「なんで並べたの」 「見せたかったから。ふふ」 「……似奈って頭よかったんだな」  なんとなく頭がよさそうで、僕より少し上くらいの学力だろうとは思っていたが、ここまで飛び抜けて勉強ができるとは思いもしなかった。 「で、創太くんの答案は? 見せてくれないの?」  似奈は得意そうにふんぞり返った。 「なんで勝手に優秀な答案見せつけられて僕の答案を見せないといけないんだよ。やだよ」  僕は即座に断る。現代文だけはそれなりに勝負できるかもしれないが、そのほかの教科はだいたい似奈より低い。見せても僕にはなんの得もない。 「えー、けちー」  けらけら笑いながら、似奈は無理やり見せろと言うでもなく自分が並べた答案を片付け始めた。  一体何がしたかったのだろう。ただただ自分の優秀な成績を見せつけたかったのだろうか。
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