僕の好きな作家はいつも芥川賞を逃す。

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 僕はラーメンを待っている間、いつも店内に設置されているテレビを見ながら過ごす。ぼーっと見ていると、また暑さについてのニュース番組が放送されていた。今日の最高気温を記録した遠い場所でのインタビュー映像が流れている。桜桃忌を過ぎて、梅雨が明けてからずいぶん暑くなったな、と改めて振り返った。  特に見たいわけでもないニュースを見て時間を潰していると、がらりと引き戸が開 いた。 「こんにちはー」  それは、僕が通う高校の制服を身につけた女の子だった。  知らない顔だった三鷹は高校の近所ではないので少し驚いた僕は、少しの間彼女のことをじっと見てしまっていた。肩より少し上まである髪が、まっすぐに切られている。  失礼だ、と気づいてすぐに目をそらそうとしたが、彼女のほうも僕の制服を見て意外そうにしていた。  コンマ数秒間目があったあと、僕と彼女はたがいに目を逸らした。  すると僕のラーメンが運ばれてきた。 「おまたせ」  奥さんが僕の座るテーブルに味噌ラーメンを置く。 「ありがとうございます」  お礼を言って、ラーメンを食べはじめた。  ずず、と麺をすすりながら、ちらり、と女子生徒のほうを見る。  彼女は、僕みたいにメニューを軽く見ただけで、店員さんを読んだ。 「すみません、ふつうのラーメンひとつお願いします」  よく通る声だった。店員さんは「はいー」と僕のときと同じトーンで言うと、また店主さんに「ラーメン一丁」と伝達した。  何年生なんだろうか。  同い年に見えなくもないが、顔を知らないので学年がわからない。しかし制服は、そんんなに年季が入っていないようにも見える。  僕は彼女のことが気になりながらも、彼女より先に食べ終わり店をあとにした。
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