僕の好きな作家はいつも芥川賞を逃す。

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 似奈が起きているかどうかわからないので、一度メッセージを送ってみるとすぐに返信があった。似奈よりも文章が下手な僕は、メッセージでうまく今の状況や心情を伝えられるかわからない。だから、「電話したい」と率直なメッセージを送信した。  すぐに似奈から着信があった。スマートフォンが掌の中で振動している。「似奈」と大きく表示された画面を見て少し深呼吸し、「通話」ボタンを押した。 「もしもし? 創太くん」  似奈の控えめな声が聞こえた。 「もしもし。ごめんこんな遅くに。体調も悪いのに」 「ううん。今はそんなにしんどくないから大丈夫。もしひどかったら今日緊急入院だったけど、明日になったから、そこまで悪くはないってことなの」  似奈が焦ったように話した。 「そうだったんだ。よかった」 「さっきのことがあったから、色々考えてて眠れなかったんだ」  電話越しに、ぽつぽつと静かに言葉を紡ぐ似奈。いつもとは全く違う。 「そうだよね。そのことなんだけどさ、さっき俊と会って話してきたんだ」  長電話になって似奈の負担にならないように、早く本題に移ったほうがいいでのはないか。思い切って、その話題を口に出してみた。 「え? 夜なのに?」  似奈は困惑したように言った。 「たまに俊たちに呼び出されて、夜会って話したりするから。今日は俺が呼び出したけど」 「仲、良いんだねぇ」  そう言って優しく笑う。 「それで、俊と、俊の先輩が、先生たちに似奈のことを訴えに行くのについてきてくれるらしい」  手短に要点を話した。ちょっと似奈にとっては情報量が多いだろうが、あまり似奈を長く拘束するのもよくない。 「え? 待ってどういうこと」  似奈のいつも通りの声のボリュームだった。驚いたのだろう。混乱させるようで申し訳ないと思いつつも話を続ける。 「名前は聞いてないからわからないんだけど、俊に似奈がいじめを受けてることを言った先輩だよ。この前駅前で会った人」  そういえば似奈と、彼らと、僕のこのメンツは、一度顔を合わせているのだと気づく。 「あぁ、加藤くん? なんで? ちょっと意味わかんないんだけど……でも、私が入院してる間に、ヤバいことになりそうだね」  似奈が目の前にいたら、ニヤリと笑っているだろう。
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