僕の好きな作家はいつも芥川賞を逃す。

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 翌日登校すると、いつものようにみんながすでに登校していた。朝練がある俊と夕陽が早く学校に到着するのはわかるが、最近は僕が最後に着くことが多い。宇佐山は一学期、結構遅刻もしていたのに。不思議だ。あの頃は宇佐山のことを不良なんじゃないかと思っていたが、実際話すようになると悪い人ではなかったので驚いた。  一番遅く教室に到着した僕の元へ、すでに登校してきていたみんなが集まってくる。 「おはよ、創太。なんか色々あったらしいな。俊から聞いたぞ」  相川が話を切り出してきた。僕がいない朝の間に話したのだろう。今日じゃないのかもしれないが、全員が集まって話すのはこの時間と昼休みくらいだ。そのうち、僕がいないのは朝だけ。 「あー……まあ、色々ね。そのうちなんとかするから大丈夫。俊も手伝ってくれるし」  なんと言っていいのかわからず、僕は言い淀んでしまった。  すると相川に替わって夕陽が口を開いた。 「今日俊が放課後部活休むことは、顧問にも許可もらってるらしいな。頑張ってこい」  夕陽は僕の背中を大きく叩いた。運動部員の喝の入れ方だ。慣れない僕は背中がじんじんする。 「あ、ありがとう」 「いやー、この中で一番創太が大人しそうなのに」  宇佐山は手を頭の上で組みながら、少し茶化すように言った。 「それはその通りだね」  俊が笑いながら言う。少しツボに入ったようだ。 「俊まで」  僕は少しむっとしつつ、その通りだなと思った。スポーツもできない、ド文系、文学少年。そんな僕が大きく物事を動かそうと試みている。どういう風の吹き回しだ、と何も知らない人は思うだろう。 「でも、それだけ一大事ってことだよなぁ」  宇佐山はぽつりと言った。朝のホームルーム前、賑やかな教室の中で、僕らのかたまりだけがしんとした。 「うん。そうだよ」  僕ははっきりとした意思を持って返事をした。 「がんばれ」  その言葉を聞いた僕は、いつもふわふわとして掴みどころのない宇佐山の、真剣なエールだとわかった。  僕はもう一度、強く覚悟を決めた。
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