僕の好きな作家はいつも芥川賞を逃す。

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 一日の最後のホームルームが終わるチャイムが鳴ると、僕はすぐに荷物をまとめた。  今日の授業は全く集中できなかった。そわそわとした心のせいもあるが、今日は特に理系科目が多い日だ。唯一あった国語の授業は古典。古典も読み解けると面白いのだが、文法がかなり今と違うのでなかなか難しい。  俊も素早く教科書をカバンに詰め込んでいる。斜め前あたりに座る彼がこちらをちらりと見た。僕のほうが数秒早く荷物をまとめたので、俊の席へと自ら向かった。 「そういやさ、アポとってないけど校長先生いるかな」  僕は授業中、気になってたことを俊に訊いてみた。昼休みまでに気づけば職員室に訊きに行けたのだが、残念ながら、気づいたのは最後の化学基礎の授業中だった。それが気になって、化学の内容なんて全く頭に入ってこなかった。せめて板書だけは写しておいたけど。 「とりあえず、職員室行ってみようぜ。校長がいなくても似奈さんのクラスの担任と一回話してみよう」  俊は僕が話しかけると、さらに急いで文房具をまとめて鞄に全て雑に詰め込んだ。 「そんなに急がなくていいよ、ゆっくりで」  僕は慌てて俊を止める。俊は普段から荷物や引き出しの中は雑な傾向にあるが、急かしているようで悪い気持ちになる。 「いや、先輩待たせると悪いからさ。急ごう」  それはもっともだ。足早に教室を出ていこうとする俊に、 「わかった」 とだけ言ってあとに続く。ふと、職員室に入ることを思い出して、ブレザーの前のボタンを閉めた。
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