僕の好きな作家はいつも芥川賞を逃す。

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ところで、太宰ファンの僕には、悩みがある。  それは、自分の好きになった作家は必ず芥川賞を獲れないことだ。 村上春樹はそのうちの一人だ。「風の歌を聴け」。面白かったのに、芥川賞を獲れないまま偉大な作家となってしまった。  しかしこれには、僕が見つけたルールというものがある。  すでに芥川賞作家である人物を好きになることはあるのだ。“候補”、またはそれに及ばない作家を僕が好きになった場合、その人は芥川賞を獲れない。今まで例に漏れた作家はいない。不思議なことだ。  「コンビニ人間」も、「火花」も面白かった。でもそれは、僕が好きになる前から作品が存在していて、芥川賞作品として知ることになったからなんじゃないかと思ってしまう。  僕はこれを、ひそかに太宰治の呪いと呼んでいる。  太宰先生は、芥川龍之介の大ファンだった。そして芥川龍之介が自殺した後ものすごくショックを受け、芥川の死後創設された芥川賞を取りたいとずっと願っていたのだ。候補になった作品はあったが、ついに選ばれなかった。  もしかすると先生は、先生のファンが好きになった作家が芥川賞を取ることが気に食わないのかもしれない。  たとえそうだとしても、僕に責任はないのでやめていただきたいが、実際賞を獲れない。先生はすでに死んでしまっているし、物申すことはできない。  だから僕は新人作家を好きになることに少し慎重になっている。きっと、偶然だろうが。
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