ガーベイジペイルキッズ・アライブ

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 古びた畳はガビガビに毛羽立っており、衝撃吸収力に乏しかった。高校柔道部の学生が繰り出す力任せの袖釣りに重心を浮かされた俺は、したたかに畳に叩きつけられ、その衝撃は背骨を伝わって脳を軽く揺さぶった。 「うぐ、すまん、ちょっと待った」  稽古相手の高校生に言い置いて、素早くトイレに走る。  既にスタミナ切れのところへ持ってきて、強烈な衝撃を中枢神経に受け、俺は吐き気を催した。トイレでもどすのも、このところ、大学時代以来のルーティンになっている。    手洗い場で顔を洗い、ふうと一息ついた。薄いトイレのドアの向こう側からは学生たちの会話が聞こえてきた。 「藤瀬さんって、捨身と寝技ばっかりじゃん。ああいうのは外人のやる邪道な柔道だって、学校の監督に言われたぜ」 「でも俺は結構苦手だな。毎回何本かは取られてる」 「なんか、オジサンたちって、ああいうスタイルの人多くないか? 市民武道館でもああいう人ちょくちょく見るよ。俺も変則スタイル苦手……」 ー少年たちよ、全部聞こえているぞ。  言いたい放題言われているが、俺の中では悪口ではなく誉め言葉と受け取っておこう。時間を巻き戻すことができない以上、身体能力には奇襲上等の変則スタイルで臨むしかない。そして、それは漏れ聞こえてくる会話から十分効果的なのだと確信できた。  ふた月前に俺は会社を辞したのだ。  
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