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プロローグ
〝人を好きになる定義は何ですか?〟
沙良の好きになった人は一般人と呼ばれる人ではなく、反社会的な集団の枠内に位置している。
沙良にはそんな世界はテレビの中でのみだと思っていた。
たまに走っている街宣車も他人事だった。
海外で勃発するテロも他人事だった。
全て『その程度のこと』だった。
でも……そんな他人事のような世界と向き合う選択肢を迫らたのなら、沙良はどちらを選ぶのか。
どちらを選んだらいいか。
沙良は冴えない高校生活を送っていた。
他の女の子と同じようにファッションや芸能人、恋バナなどは無縁な世界で過ごしていた。
ただ、将来に夢はあった。これでも生物学の研究員になりたかったのだ。
その為に大学進学を目指し、猛勉強すべきだったのだが、方向性が間違っていたのか、進んでいたのは受験方向ではなく、趣味の領域の狭く深い沼の底であった。
案の定、大学合格の切符は手にできず……どうしても掴みたいと予備校を志願し、猛勉強することにした。
沙良は母子家庭で、母親は女手一つで沙良を育ててくれていた。
父親は……理由は不明だが、物心ついた時にはもう居なかった。気にはなったが、そこは察して触れないように過ごし18年経過。
沙良の中で今後も触れることは無いと思っている。
運命とは『予想外のことが起こるから面白い』と誰かが言っていたのを思い出す。
ある日、母親のガンが発覚した。
発覚した時にはもう末期であった。沙良はサクラを見せることすら叶わないことを知る。
沙良は泣き崩れていた。人生においてこんなに泣いたことは今までないほど只々涙するしかなかった。
泣いて泣いて……泣いている沙良に母親は一つの提案を持ち掛けた。
「お母さんが死んだら……お父さんのお世話になった人が何とかしてくれると申し出てくれているけど……」
それは青天の霹靂であった。父親のことはタブーだと思っていたのだが、それがこうして母親の口から告げられようとは思ってもみなかったらである。
しかし、それと同時に過去形から父親はもうこの世にはいないことも悟った。母親は沙良が望むなら自分が動けるうちに紹介したい、と告げる。
沙良は進学をあきらめて働くことを提案した。人生の転換期なんてよくあることだと思っていたため、覚悟はできていたのだ。
今まで苦労していた母親の最後ぐらいゆっくりさせてあげたかった思いもある。
しかし母親も沙良の夢を応援することが最後の望みだと告げた。最後ぐらいは沙良の為に何かさせて欲しいことを訴えていたのだ。
沙良は世話になることで母親の心配が一つ取り除けるなら、とその提案を受諾した。
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