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今にも崩れ落ちてしまいそうな地下道を、少女は涙でにじむ視界のまま走った。胸に抱えたものを落とさぬよう、震える手に力を込め一心不乱に進む。
共に走る数人の男達もみな重苦しい顔で、ピリついた空気を醸し出している。むせるほどのホコリもカビ臭さも、気にしている余裕など誰にもなかった。
突然天井が崩れた。少女は寸前のところで難を逃れたが、男が一人生き埋めになってしまった。少女は生き埋めになった男の姿を見ると、血相を変えて叫んだ。
「お父様!」
少女が、瓦礫に体の殆どを潰されてしまった父親に駆け寄ろうとする。
「来るんじゃない」
父親は血を吐きながら言った。辛うじて動かせる左手を伸ばし、少女を……少女が胸に抱えるものを指差して続ける。
「それを守ることがお前の使命だ。お前だけは生き残るんだ」
父親の体の下に広がる液体は、暗がりのせいで黒くしか見えない。少女の顔は青ざめていて、体の震えは一層強くなっていた。もう自力では動けない。側にいた若い男が、半ば強引に少女を連れていく。
「お父様……」
父親の姿は、暗闇と舞い上がったホコリですぐに見えなくなった。
少女達は走った。少女は震えてぎこちなくなった体を必死に動かし、男達は少女を守るため恐怖と不安を押し殺しながら、とにかく進んだ。
ミシミシっと、異音がすることに気づいた一人がみなを止める。それと同時に目の前の天井がまた崩れた。しかし今度は、不自然に。
「逃げられるとおもったのか?」
舞う粉塵の中、大きな影が動いた。影は大きな口を開けふっと息を吐くと、嵐のような強風が吹き荒れて粉塵を全て吹き飛ばしてしまった。
少女達の目と鼻の先に、地下道を塞ぐほど大きな顔があった。ワニのように突き出した大きな口には、見ただけで気が遠くなるほど鋭い牙がびっちり生えている。金色に発光した目はぎょろりと少女達を睨み、身体中分厚い鱗に覆われている。長くて太い角は、動く度にどこかにぶつかり壁や天井を崩していく。ドラゴンだ。
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