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伸くんとは、小さい頃からいつも一緒だった。伸くんは明るくてわんぱくで、よく公園や空き地を探検して、体をどろんこにしていては怒られていたっけ。
中でも、ことさら鮮明に残っている思い出がある。
一緒に行った地元のお祭り。
伸くんは、そこでもヒーローだった。
金魚すくいとスーパーボールすくいでは、屋台のおじさんを困らせるほどにたくさんすくっていた。
お祭りで、伸くんが活躍すると、どこからともなく子どもたちが集まってきて、「すげー」とか「かっこいい」とか羨望の眼差しを向けていた。
伸くんは、射的もうまかった。
あの時、伸くんは私が欲しがっていた、ウサギのキーホルダーを一発で取ってくれた。その1回で終わりにするのかなと思っていたら、伸くんはまだやめようとしなかった。
私は伸くんに「もう欲しいもの取ってもらったからいいよ、ありがとね」とかなんとか言ったんだ。そしたら、伸くんは「俺が取りたいものがあるんだ」って真剣な顔をして狙いを定めた。
伸くんが仕留めたのは、指輪だった。ルビーみたいなキラキラした赤い石がくっついた指輪を、伸くんは私の左手の薬指にはめた。
「将来、俺のおよめさんになってください」と、真っ赤に染めた赤い顔で。
「母ちゃんに聞いたんだ。結婚するとき、男がこんな風に左手の薬指に指輪はめるんだってさ。今は、おもちゃだけどな」
鼻の下を人差し指でこすりながら、伸くんは恥ずかしそうしていた。
その時、私は、「うん、私も伸くんのおよめさんになりたい」って答えたんだっけ。
今、思い返すだけで恥ずかしい。
何で、こんな大切なこと、今まで忘れてたんだろう。
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