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――ああ、私は自殺すれば良いのか。
当時は生きることに必死だった。
せっかく死から逃れた命を自ら絶つなどありえなかった。
でも、今は違う。
生も死も戦いも勝利も全て見てきた。
穏やかな日々を送ることも出来たが、その先にあるのは次の戦場だった。
幸い、今世の私は天涯孤独。
戦場で死のうが自殺しようが悲しむ人はいない。
次の生で戦争に駆り出されるのに、温かい家庭などもつ気にはなれなかったからだ。
自動拳銃を手に取り、こめかみに押し当てる。
鉄の塊のひやりとした冷たい感触が、私の覚悟を曲げそうになった。
「来世なんてなくて良い。安らかな眠りを……」
震える手で引き金を引く。
頭蓋を弾丸が突き抜ける感触と銃声、硝煙の香りを感じながら私は意識を手放した。
確かに死んだ――はずだった。
頭を貫く痛みも、血と硝煙の匂いも、確かに本物だった。
それなのに――。
「やっと来ましたね。転生を繰り返した魂よ」
私を待っていたのは、ヒトの姿をした絶望だった。
「ああ、魂が黒くひび割れてきましたね」
歪んだ笑みを口元に貼り付け、それは私に向かって手を伸ばす。
胸の奥にあった塊を引きずり出された。
黒い石のようなそれはひび割れ、ぱらぱらと小さな欠片がこぼれ落ちる。
「さようなら」
聞こえたのは別れの言葉。
石を飲み込む絶望が、私の最期の記憶だった。
THE END
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