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翌日は、神社の境内のお掃除の日。樹さんを送り出した後、私は古本入り小ぶりのリュックを背負い、ベージュの日よけ帽を被って出かけた。
薄曇りの空の下、神社の石段を登り切ると、境内では既に諏訪さんたちが竹箒を動かしていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
諏訪さんがほわほわの白髪頭を揺らしてお辞儀をした。参道の石畳は神様の通り道。それを神様本人が掃除しているんだから変なお話なんだけれど、諏訪さんたちに言わせると「自分ちの掃除を自分がするのだから何らおかしいことではない」そうなの。
私は氏子というわけでは無いのだけれど、事情を知ったからにはお手伝いをしなくちゃって気持ちになってしまって、日にちを決めてお掃除のお手伝いに来ている。
「フミさん、はい、これ」
来て早々、浅間さんが軍手とバケツを手渡してきた。
「何ですか?」
「銀杏拾いよ」
「銀杏?」
キョトンとしていると、社の脇から、こっちこっち! と狐塚さんが声をかけてきた。浅間さんと一緒に狐塚さんのそばまで行く。
ん? なにかしら? このにおい?
社の裏手に回ると、地面に黄色い木の実がたくさん落ちていた。動物の糞みたいなにおいは、この木の実から漂ってくるらしい。
「イチョウの実よ。果肉が結構独特な臭いを放つけど、殻の中の種は美味しいのよ」
「軍手はめて、ひらってバケツに入れてください」
「はい……」
私は浅間さん、狐塚さんと一緒に銀杏を拾い始めた。バケツの中はちょっとしなびた黄色い実で瞬く間にイッパイになっていく。
「誰も食べてくれる人が居なくて、毎年みんな埋もれてしまっていたのだけど、今年は学童の子たちに教えたからね。拾って水に浸しておいて、週末子どもたちと一緒に下処理をするんですよ」
浅間さんが楽しそうに言った。
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