糸引き電話

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 銀杏はバケツ3っつ分も集まった。手水場の脇にある外水道まで3人それぞれが持って行く。バケツヒタヒタまで水を注いで、週末まで放置、なのだそうだ。水で果肉が緩んではがしやすくなり、下処理が楽になるらしい。 「ますますすごい臭いになりそうですね」 「うん。そういうものだから」  狐塚さんはニコニコと笑った。 「銀杏は炒って、塩をパラッとね。美味しいツマミになりますよ」 「ふうん」  食べたことないから、味は解らないなぁ。樹さん、喜ぶかしら。  境内を掃き清めた鹿島さんと香取さんがやってきた。 「おう。フミさん、久しぶりだな」 「はい」  私はぺこりと頭を下げる。鹿島さんは、狐塚さんに向き直ってから裏山へ続く小路を指さした。 「涼しくなったからか、アイツ、来たぞ。上社に上がっていった」  何のことだろう? 私は首を傾げてみんなを見回す。  神妙な顔をした浅間さんが、私に目配せして説明してくれた。 「春からね、時々、高校生の男の子がね、平日この神社の上社(かみやしろ)に来てるの」 「上社って……」  私は裏山の方を見る。  香取さんが溜息まじりに口を開いた。 「大神(おおがみ)のとこだ。山頂に山の神と合祀した社がある。そこで、半日くらいぼんやりして過ごしているらしい。長谷部凌空(はせべりく)。お参りしなけりゃ願い事もせんから、どう言った経緯でここにきているのやら、さっぱりとわからんのだ」 「ふうん」  私はしばらく裏山の方を見上げていた。 「お掃除、終わりましたよね」 「うむ」 「私、見てきます」  私は古本の入ったリュックを背負いなおすと、上社に上がる細い参道に向けて歩きだした。
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