糸引き電話

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 週末、私と樹さんは連れ立って神社へ行った。諏訪さんに頼まれてた買い物を二人で下げて石段を上がっていく。  境内に上がると、手水場のそばに、黒い長靴をはいた鹿島さんが立っていた。大きなスコップを片手に持っている。周囲には銀杏の何とも言えない臭いが漂っている。 「おはようございます」 「おう。今日はボンも来たか」  鹿島さんはニコニコして私たちを迎えた。スコップに視線を送ると、鹿島さんは、ああ、これ? と持ち上げてみせる。 「剥いた果肉を埋める穴を掘っておいたんだ。今日来るって言ってたのは、5,6人くらいかなぁ。案外今の人は、銀杏のことを知らないんだな。断ってきた人は皆、今一ピンと来てない風だったなぁ。まこと君とさとる君は来るって言っていたぞ」 「そうなんですね。あ、これ、たのまれてたプラスチック手袋と、排水口用のネットです。レシートは、ここに……」 「ありがとう。後で諏訪が精算するよ」 「おう! フミさんにボンボン! よく来たなぁ」  社の方から、諏訪さんと香取さんがやってきた。二人とも、異様な臭気を放つバケツを手にしている。  私の隣で樹さんが、なんで俺だけボンボンのまんま……と文句を垂れていた。  そういえば、そうね。 「水だけ捨ててきたんだ。ほれ、いい具合に果肉がぐずぐずだ」 「うっ」  バケツの中のモノの臭気に思わず鼻をおさえる。香取さんが笑って、個包装の不織布マスクを差し出してきた。完全にシャットアウトできるわけじゃないけれど、幾分かマシ?  諏訪さんに買い物の精算をしてもらって、バケツの中身を小分けにしていると、参道の方から賑やかな声が聞こえてきた。子どもたちがやってきたのだ。 「うわ! 何これ? くっせー!」 「マジでくせぇー!」  先陣を切ってやってきたさとる君、まこと君が叫んで、後から来た大人たちに(たしな)められる。さとる君ちはお爺さんが一緒に来ていた。他の子どもたちも親や家人と一緒に来ている。  諏訪さんが手際よくプラスチック手袋と排水口用ネットを配り、鹿島さんが段取を説明していた。香取さんは、小分けにした銀杏と新聞紙を配って回る。    こうして、銀杏の下処理作業が始まった。  
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