糸引き電話

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 夕方、大分日が傾きかけてから帰路につく。午前中いっぱい銀杏の下処理をして、お昼におにぎりとお新香をいただいた後、神社の方々とおしゃべりに花が咲き、すっかり時間を忘れてしまった。 「排水口用ネットに銀杏を詰めて乾かすなんて、考えたなぁ。これなら広げたりする必要が無いし、いざというときすぐ取り込める……」  お土産にとオマケ分まで持たされた銀杏の入ったレジ袋は、ずっしりと重い。 「こんなにたくさん食べて具合悪くなったりしませんか?」 「ん? なんで?」  樹さんがびっくりしてこちらを向く。 「だって、これ、毒なんですよね?」  樹さんは噴き出した。 「いっぺんに食べなきゃ大丈夫だよ。それに、俺、子どもじゃないし」  まぁ、こんなにたくさん入っているのをいっぺんには、無理。 「今夜、一緒に晩酌してみる?」 「これ、オツマミにするんですか?」 「フミさん、食べたことないでしょう?」 「そりゃあ、そうですけど……」  カリグラフィのコピー、まだ残ってたかなぁ。  小学校の角を曲がった時、向こうから歩いてくる見覚えのある人影に気が付いた。ああして、猫背になって歩いている姿はやはり覇気がない。歩く方向的に神社に向かってるみたい? 子どもたちは帰ってしまって、今境内にいるのは諏訪さんたちだけだ。  すれ違った人影に、樹さんが振り向いた。背中をしばらく目で追っている。 「どうか、しましたか?」 「あ、いや……」  樹さんは歯切れ悪く呟くと、目を瞬いた。 「あれ? でも……」 「はい?」  二人して立ち止まり、視線を合わせる。 「今の子、……知ってる子だと思うんだけど」  樹さんの言葉に、私は目を見開いた。
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