糸引き電話

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 週明けの朝。玄関先まで樹さんを送り出してから、ガランとしたリビングに戻る。週末、樹さんに手伝ってもらって書斎の本棚は片付いたし、今日はもう、やることないからこのまま引っ込んじゃおうかな。  窓の鍵をかけて、お休みモードの準備をしていたら電話がかかってきた。 「はい! どちらさまですか?」 (こんにちは。こちらリサイクルサービスのカネモトと申します。お忙しい時間に失礼いたします。こちらはご家庭の御不用品を回収するサービスを行っております。奥様のお宅にはお使いになっていないものや、着られなくなった服などございませんでしょうか) 「はい?」  このうちに不要なもの?  (何でもかまいません。そちらサマが価値の無いと思われているものでも、価値を見出す方がいるやもしれません。回収費用を頂戴することもございません) 「はぁ……」  そんなこと言われたって、ここは樹さんのお宅なんですから、私が判断できるわけないじゃないですか。 (どうでしょうか。着物一着からでもよろしいんですよ)  何か知らないけど、随分と強引なヒトだなぁ。 「あのぉ……私、留守を任されている者なので、家主に断りなく家のモノを動かせないのですが……」 (……は?)  意味が解らなかったのか、電話の声の主はいささか不機嫌を隠しきれてない返事を返した。 「ですから、私は留守を預かっているだけで、ここの家の主ではないのです」 (では、家主様はいつならお戻りでしょうか) 「わかりません」 (はい?) 「帰宅時間がまちまちなので……」 (……それでは失礼いたします) 「あ、あの!」  私は受話器を握りしめた。 (は?)  「どういう基準で我が家に電話を掛けてらしてるんですか」 (さぁ。わかりません)  電話はいきなり切れた。 なんだろ。失礼な人だなぁ。
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