糸引き電話

18/21
前へ
/21ページ
次へ
 夕方、ベランダで洗濯物を取り込んでいたら、下から声を掛けられた。        あ、田辺さんだ。  階段をおりて玄関に出る。 「こんばんはー」 「ああ、フミさん、後で回覧板が回ると思うのだけど普段在宅していらっしゃるからお話しておこうと思って……」  仕事帰りにスーパーへ寄ったと思しき田辺さんは、エコバッグを肩に下げて真剣な表情で話し出した。 「最近、悪質な『訪問販売』や『買取屋』が増えているんですって」 「なんです? それ」  私が首を傾げると、それがね! と田辺さんは勢い込んだ。 「先に電話してアポイントを取り付けてからお宅に上がり込んで、必要のない高価なものを買わせようとしたり、売る気のないものを二束三文で買い取ったりするんですって。ここら近所でもご高齢の独居宅が被害にあったそうよ」 「まぁ……それは大変」  伊勢は津で持つ 津は伊勢で持つ 『尾張(おわり)』名古屋は城で持つ    ではなくて、心当たり『大有(おおあ)り』なんですけど。  ここんとこよく来てたお電話って、悪質な『訪問販売』や『買取屋』だったんですか?  御親切な方々ばかりだと思ってました。  まぁ、私には不要なものばかりだったので、丁寧にお断りしてましたけど。 「IP電話でかかって来ることが多いので、『050で始まる電話には不用意に出ないように』ってことですから、フミさんも気を付けてくださいね」 「ご丁寧にありがとうございます」    まぁ……、面白いヒマつぶしだと思っていたんですけどねぇ。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加