糸引き電話

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 夕飯。  樹さんが、会社の人から新米をいただいたので、早速炊いてみた。  ご飯茶碗二つに新米をよそう。お味噌汁は豆腐とワカメ。アジの開きにお新香というシンプルな組み合わせ。今日は、一緒に新米を味わうために、あえてこんな感じにした、らしい。  ツヤツヤの甘いご飯は美味しかった。  そう、例えるならば、心優しくなる児童書みたいな味。  いつもなら、樹さんが食事もお風呂も終えて2階へ引っ込む時間だけど、今夜はあえて二人そろって電話とにらめっこしている。 「ホントに、電話がかかってくるの?」  樹さんは半信半疑だ。2階の子機は、私が2階に上がった時にしか電源を入れないので、樹さんは無言電話のことを知らない。 「んー。多分、今夜あたり来ると思うんですよね」  カチッ。  電話のデジタル表示が通電した。樹さんと私、目配せする。樹さんが、通話をスピーカーモードにして電話を取った。 (………………ハァ……ハァ)  あれ? いつも通りの無言………じゃない?   スピーカーから漏れるなんだか荒い息遣いに、私は目をパチクリさせる。よくよく見ると、表示されてる電話番号はいつもみたいな携帯からじゃなくて、固定電話だ。    え? これ、誰?  樹さんが、これ? って電話を指さしたので、私はブンブンと頭を横に振る。 (ねぇ………)  スピーカーからくぐもった男性の声がした。 (おねえさんのパンツ、……何色かなぁ) 「は? パンツの色ですか?」  突拍子もない質問に、思わず返事を返してしまった。  樹さんが慌てて通話を切った。 「フミさん?」  私を咎める樹さんの声が裏返っている。 「夜かかってくる電話って、まさか……」 「え? さっきのはお初ですよ。見たことない番号からかかってきてましたし……。パンツの色聞いてどうするんですか?」 「いいよ、フミさんはそんなこと知らなくて! ああもう、こいつは通報だ! 通報! ……あのバカ、非表示にしてなかったよな」  樹さんはプリプリしながら固定電話を操作して、通話記録からさっきの電話番号を表示してスマホで写真を撮っていた。うー、通話内容録音しとけばよかった、とブツブツ言っている。
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