糸引き電話

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 先日、誠一郎さんの大学の方がお見えになって、蔵書の一部を引き取って下さったの。なんでも、学生の研究資料に使いたい書籍があったらしくて、お陰様で書斎の三分の一くらいがすっきりいたしました。  そんなわけで今日は、片隅でギュウギュウになっていた「私の巣」を少しずつ取り崩して、横積みにしていた本をキチンと並べ直す作業をしております。    それにしても、今までギュウギュウに詰められていたことを考えますと、この本たちは縁側まで持って行って一度外気に当てた方がよろしいのではないのかしら?  ふと思い立って本を抱えて縁側で本を並べようと書斎を出ますと、あらあら、電話が鳴っております。 「はいはーい! 今出ます!」  一昔前のファックスと一体になったタイプの固定電話の受話器を持ち上げて、抱えていた本を足元に置きました。 「はい! どちら様ですか?」 (あー、こんにちは。奥様でいらっしゃいますか? こちら○○でジュエリーの類を扱っております『ジュエリー・ルーチェ』のアサヒと申します。今、お時間よろしいですか?)  若い男性の声。  宝石屋さんが何の御用かしら?  「ごめんなさい『奥様』ではないです。結婚していないので」 (あっ! これは失礼いたしました。落ち着いた素敵な声だったもので。お嬢さんでいらっしゃいましたか)  男性、アサヒさんは丁寧にお詫びをした。  奥様とお嬢さんだと、何か違うのかしら……。 (お嬢さんは、宝石にご興味はおありですか?) 「いえ。全然」
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