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昼下がり。太陽が少し傾いてきた。
残暑もひかえ目な昨今。季節は確実に秋へ向かっていて、日が落ちるのがちょっと早くなったなぁと感じる。湿気が上がらないうちに縁側の本を回収して書斎に戻す。洗濯物もそろそろ取り込むとしましょうか。今日は洗濯物が少ないのでお二階のベランダに干していたのでした。
洗濯物なんて、実質、樹さんのだけみたいなものですからね。
片手で充分足りる量の洗濯物を手に、内に戻るとまたお電話。
今日は、立て続けだわ。何事かしら。
樹さんの部屋にある固定電話の子機を手に取った。
「はい! どちら様ですか?」
(お忙しいお時間に失礼いたします。こちら墓石等の石材をお取り扱いしております、セキノ屋と申します)
「はい?」
石材屋さんからのお電話は初めてだわ。
どう言ったご用件なのでしょう?
(墓石に関するご相談を総合的にお伺いしております。最近ですと、お墓を維持できずにご相談を受けることが多うございまして、当店は菩提寺様とのお話合いから『墓じまい』について全面的にご協力差し上げております)
人のよさそうな年配の女性の声。
「ああ、はい」
(お声を拝聴いたしますところ、奥様でいらっしゃいますか?)
んー……どうしようかしら。
「はい。そうです」
(お困りごとはございませんでしょうか)
お困りごとも何も……。
「あの、拙宅は主人を先般亡くしたばかりでございまして……三回忌も未だなのです」
(あっ……)
電話口の向こうで息をのむ気配。
(それは、存じ上げぬこととはいえ……誠に失礼いたしました。心中お察しいたします)
「お気遣い痛み入ります。こちらも予期せぬ事態で急逝いたしましたものですから、所々至りませんで、正直なところ周囲にまかせっきりでございまして……」
(まぁ……それはそれは。さぞかしお気を落としのこととお察し申し上げます)
一瞬言い淀んだ声音に、やや震える語調。
あら……この方、いささか感が極まっていらっしゃるのかしら。
(奥様のご様子だと、さぞ若くしてお亡くなりになったのでしょうねぇ……。お気の毒に……。お子さんは?)
「はい。一児がおります」
(まぁ……。奥さん、気をしっかりね!)
あらら、なんだか急にフレンドリーになってきたわ。
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