糸引き電話

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 樹さんを「一児」扱いは、ちょっと厳しかったかしら。  でも、誠一郎さんの一人息子さんだしね。間違いではないはず。 (うちも夫を先に亡くしましてねぇ……。不器用な人でしたけれど、穏やかで良い人だったんですよ) 「そうなんですか。拙宅の主人も、無口で感情表現に乏しいヒトでしたが、優しい心根の持ち主でした」  電話の向こうの方は、うんうんと頷いていらっしゃるご様子。 (このようなお電話を差し上げていると、様々なお話を拝聴することがありますのよ。本当にお困りのご高齢のご婦人のお話や、奥様に先立たれた男性の未だ忸怩たるお気持ちや……) 「ええ」  まぁ、そうでしょうねぇ。  お墓のお話となると、やはり故人のことが話題になるわけで。 (こんな凡人なワタクシたちでも、生きていれば色々ありますもの) 「そうですわね」  ヒトじゃなくても、なんだか色々ありますからねぇ。 (貴重なお時間をいただき、誠に申し訳ありませんでした。それでは失礼いたします) 「いえいえ。こちらこそ、お気を遣わせてしまいまして。温かいお心遣いありがとうございました」  子機のスイッチを切ってスタンドに置いた。     心優しい方なのねぇ。  きっと、寂しいご高齢者相手だと長話になってしまうに違いないわ。  お心遣いがお仕事に繋がればよいのだけれど。    私はその場で洗濯物を畳み始めた。
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