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「ただいまー。今日もフミさんありがとう」
帰宅した樹さんは、ちょっとお疲れモードだった。
クリスマス・お正月をひかえた紙物アイテム新作売り込みの山場らしい。レーザーカットの繊細な意匠に、和泉さんのカリグラフィを加えたオトナっぽいカードは、私もたくさん試作品を見せていただいた。東欧のカロチャ刺繡モチーフのカードは私も欲しいくらいの可愛さだった。
「最近、忙しそうなので、胃に優しいものがいいかなと思って、冬瓜と鶏手羽を炊き合わせたのに挑戦してみました」
「お、炊き物はいいね。作るのに時間がかかるから、なかなか平日は食べられない」
樹さんは一旦二階に引っ込んでから、ラフな格好に着替えて食卓に降りてきた。
「今日はセールスのお電話が3件も来たんですよ」
ご飯をよそいながら私が言うと、箸と箸置きを並べていた樹さんが応じた。
「今時、電話で営業なんてまだあるんだ?」
「うーん。ほとんどの方が携帯を持ってると思うんですけどね。ここら辺って固定電話普及率が高いんじゃないでしょうか。在宅の高齢者とか多そうですし」
「ふうん」
樹さんは、くいっと椅子を引くとこちらに視線を向けた。
「各戸に固定電話があった昔には、『電話帳』なんてものがあってね、だいたい全世帯の世帯主の名前と電話番号が載っていたんだよなぁ」
「ええ? そんな個人情報が駄々洩れな時があったんですか?」
樹さんは、ちょっと困った顔をして頭を掻いた。
「電話番号が個人情報って感覚がなかったんだよ。なんてったって、その『電話帳』は定期的に配布されていたしね」
「配布!」
それはまぁびっくりだわ。詐欺電話なんてし放題じゃないですか。
「今では、固定電話番号を含めた個人情報は、名簿屋などが扱う情報商材になっているから、会社でも電話番号を公開していないところもあるくらいなんだ。うちもそうだよ。ネットにも企業パンフにも連絡先として公開しているのは会社のホームページアドレスとサポート窓口のアドレスだけだ」
「へぇえ……」
電話番号の扱い一つとっても時代の変遷が感じられますわねぇ。
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