糸引き電話

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 食事もお風呂も終わって、樹さんは「おやすみ」を言うと二階に上がっていった。私は洗い物を終えてから、書斎に引っ込もうかなー、どうしよっかなーと考えているところ。  多分、そろそろあの電話がかかってくる頃のはずなんだけれど、今日は無いのかしら。  固定電話の前にダイニングの椅子を持ってきて、しばしの間にらめっこ。 「あ……」  カチッと音がして、電話のデジタル表示画面が通電した。コールが鳴る前に受話器を取る。 (………………) 「………………」    んー、今日も無言を貫くのかしら。 (……………………) 「……………………」  僅かに聞こえる息遣い。  なんとなく、男の人っぽい。  週に2,3回くらいかしら。  ここ最近、ウィークデーの夜中にかかってくる無言電話。  何か言いたいことがあるのかしら?  それとも、誰かと繋がっていたいだけなのかしら?  しばらく黙って待っていると、あっちの方から切ってしまうの。  まだ、お話する勇気が出ないみたい。 (……………………) 「こんばんは。今日は、良いお天気でしたね」 (……………………) 「洗濯物が気持ちいいほど乾きました」 (……………………) 「ついでに、蔵書も干しました」 (……………………) 「夕飯に、冬瓜と鶏手羽を炊きました。好評でしたよ」 (……………………) 「今日は、ご飯、ちゃんといただけましたか?」 (……………………う)  あら、何やら声が聞こえたような? 「……………………」  ちょっと、次の発声を待ってみる。 (……………………)  「……………………」  電話越しに、小さな吐息。  そして、通話は一方的に切れた。  ふむ。  何か、反応はあったわね。  ちょっと進展と言っていいのかしら?
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