【黄昏のハーメルン】

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古びてかび臭い。腐臭のようなものを感じた。 けれどここに母が住んでいるなら。 表札を見つけた。二階の角部屋。 池谷、とある。 池谷裕子。 それが母の旧姓だった。 ここまで来たけれど、どうやって会ったらいい? いきなりインターフォンを押す勇気は俺にはなかった。 そこで、母を少し尾行することにした。 遠目で見ているだけでも、もしかしたら満足できるかもしれない。 もし俺を探しているようなら、声をかければいい。そんな風に言い聞かせて。 しかし母への憧憬は、すぐに消え去った。 尾行していて分かったのだが、母にはパトロンがいて、そいつと寝て、金を受け取っているらしいのだ。 年甲斐もなく派手な化粧と服装で、ずっと年上の爺と腕を組んで歩いているのを見て、幻滅した。俺と同じじゃないか。体を売って、金を貰って。 ほたるという子供がいるらしいことを知り、俺はおおいに同情した。同時に、母にまた怒りがこみ上げた。また、いらない子供を産んだのか。あの女は。 尾行もそろそろやめようと思っていた頃、母が、おもちゃ屋に入るのを見かけた。
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