【黄昏のハーメルン】

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お父さんの顔は覚えていない。 出て行った、とお母さんは言っていた。 そのお母さんが、僕を迎えに来ることは一度もなかった。 男の人とのお付き合いが忙しいんだって言ってた。 家には六時まで帰ってくるな、と言われていた。 一度だけ、言いつけを破って五時に家まで帰ったことがある。 お母さんにバレないように、そっと、鍵を開けて。 忍び足で居間に入って。 そうしたら、ベッドルームから変な声が聞こえた。 お母さんの声だった。 甘いような、それでいて苦しいような。 お母さんが誰かに虐められてるんだと思って、僕は怖かったけど、突っ張り棒を持って、お母さんの部屋に近づいた。 胸が早鐘のように鳴った。怖かった。 でも、もしお母さんが……。 勇気をだして、そっと襖を開けた。 中に見えたものは……。 裸のお母さんが、見たこともない裸の男の人と絡み合っていた。 白い蛇が二体、絡みつくように。 僕はその光景に、驚いて飛び退った。 なんだか見てはいけないものを見てしまった気がする。 だって、お母さんの顔は、いつも僕に向ける顔と全然違った。
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