【黄昏のハーメルン】

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媚びたような、甘えるような、緩んだ顔。 皺の目立つようになったお母さんの笑顔が、とても醜いものに見えた。 歳寄りなのに、少女の顔。 そんな風に思った。 真理ちゃんはクラスで一番可愛いけど、それを丁度老けさせて、顔全体の肉がたるませたような……。 僕は急いで部屋を抜け出した。 突っ張り棒を洗面所に投げた。 走って逃げだした。 お母さんが帰ってくるな、とは、こういう事情だったのか。 知らない男の人と、裸で絡み合って、甘えて、媚びを売って。 きっと僕はお母さんに甘えられるけど、お母さんは甘えられる人がいないので、ああやって男の人に甘えているんだろう。 仕方ないことなんだ。ほたる。あれは、お母さんの仕方ない欲求なんだ。 僕はなんとか納得しようとしたけれど、いつまでたってもその光景は忘れられず、納得もできなかった。 だからお母さんの顔を見るのが暫く怖かった。 だけど、そんな忙しいお母さんも、僕の誕生日には、ケーキと御馳走とおもちゃを用意して待っていてくれた。今年ももうすぐ僕の誕生日だ。心の中の決着をつけなければ。
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